最大級の電子初期読み放題サービス開始
記事を読んでいただきありがとうございます。今回取り上げるテーマは電子書籍です。これまで出版不況と言われ雑誌はもちろんのこと単行本自体の売上も下がってきている中、紙の本は電子媒体に取って代わられるのかということをよく耳にしていました。そして2016年6月27日に一つのニュースが飛び込んできました。
引用開始
アマゾンジャパンが電子書籍の読み放題サービス「Kindle Unlimited」を日本で8月にも開始するという。文化通信が6月27日に報じた。
(中略)
「Kindle unlimited」は電子書籍の月々定額制の読み放題サービスだ。2014年にアメリカでサービスを開始。アメリカのほか、イギリス、イタリア、スペイン、ブラジル、フランス、メキシコ、カナダ、ドイツ、およびインドの10か国で提供されている。
Twitterに投稿されたバナー広告の画像には、月額980円で、5万5000冊を超えるタイトルと、数千に及ぶオーディオブックに無制限でアクセスできるとある。
定額制の電子書籍サービスは、2万冊以上が読み放題の「Yahoo!ブックストア」や、4万冊以上が読み放題で、auスマートフォンユーザー向けのサービス「auブックパス」などがあるが、それらを凌ぐ規模のサービスとなりそうだ。
引用終了
アマゾン、電子書籍読み放題サービスの衝撃 「Kindle Unlimited」がついに日本上陸か
すでに電子書籍が定額で読み放題というサービスはありましたが、記事にも記載されているとおり、これまですでに提供されていたサービスを超える規模になる見込みです。すでに電子書籍販売というジャンルにおいてKindleは十分な地位を築いています。2014年のデータにはなりますが、その時点ですでに電子書籍ストアのシェアが2位になっていて、1位ともほぼ差がない状態です(グラフは2014年度電子書籍コンテンツ市場動向調査の図1を引用)。昨年のデータをまだ確認できていないのですが、僅差でもあるのでもしかしたら逆転している可能性も十分に考えられます。それだけAmazonの電子書籍ストアKindleは電子書籍サービスの代名詞となっていると言っても過言ではありません。
そんなAmazonがついに個別の販売だけではなく定額読み放題サービスを開始するとともに、読み放題の対象が5.5万冊にも及ぶということは他の電子書籍サービスを提供する会社からすると脅威に違いないでしょう。日本向けの蔵書がKindleストアに比べて豊富であるのであればまだ有意性を保っているのかも知れませんが、現在すでに出版社に呼びかけをしてサービスに参加してもらうための特別条件を提示しているとのことで、5.5万冊の蔵書も更に積み上がっていくことが予想されます。
アメリカでのサービス内容は2014年に同様のサービスを提供開始しており、金額も約10ドル、サービス開始当初で約60万タイトルが読み放題でした。こういう状況からも国内のKindleストアにおいて読み放題の対象となるタイトル数はあっという間に10万タイトルを超えるのではないでしょうか。
出版業界の売上規模の推移
電子書籍サービスの成長に目が行きがちですが、出版業界全体の推移はどうなっているのでしょうか?2015年のデータを元に一度見てみましょう。
引用開始
先日、2015年の出版統計が発表されました。それによると、書籍も雑誌も、2014年に引き続き、さらに売り上げが減少しました。2月5日には、中堅出版取次の太洋社が業績不振を受けて自主廃業の検討に入ったとの報道もあり、「出版不況がさらに深刻化した」との論評が相次いでおります。元データ(財団法人全国出版協会・出版科学研究所)にあたってみますと、特に、雑誌の数字が悪いですね。
書籍が、前年比▲1.7%と微減にとどまった(7419億円)のに対し、雑誌は、▲8.4%と、大きく落ち込みました(7801億円)。2014年は、書籍が前年比▲4.0%、雑誌が▲5.0%でしたから、2015年は、書籍はやや持ち直した一方で、雑誌はさらに悪化した、ということがわかります。上のグラフを見ても、緑(書籍)と比べて、赤(雑誌)の下落カーブが急ですね。出版物の売り上げは、1996年にピークを迎え、その後は毎年減少しています。その意味では「出版不況」は、かれこれもう20年近く続いているわけです。2015年には、『火花』の240万部を超えるヒットなど、いくつか明るいニュースがあったにもかかわらず、全体の売上額は、ダウントレンドを覆すところまでは行きませんでした。
引用終了
1996年をピークとして全体で毎年500~1000億円程度売上の規模が低下しています。この図を見ると誰しもが出版業界はもう終わりなのかと思ってしまうかも知れません。あくまでこのままであれば斜陽産業として細々と生きていくしかなくなるのは間違いないでしょう。売上が減少していく中、成長している分野があります。そう、電子書籍です。先ほどのグラフはあくまで紙の雑誌や書籍における売上推移です。電子書籍における売上規模の推移を見てみると、右肩上がりとなっています(図はインプレス総研と出版科学研究所の比較:電子書籍市場規模推定の比較より引用)。電子書籍の売り上げ規模が成長していると言ってもその電子書籍の内8割は漫画が占めています。要するに漫画コンテンツ以外の書籍があまり売れていないが故、今後の電子書籍の成長を考えるのであれば、漫画が売れるようにするのは継続していくとして、漫画以外の文字を中心とした書籍の販売拡大が急務となっています。
というのも紙であれば漫画も含めて全体の売上が落ちてきていますが、電子書籍の売り上げを足したところで結局出版業界全体の売上規模が年々衰退傾向にあることは変わっていません。成長している電子書籍によって多少下げ幅が小さくなっているだけで、紙の雑誌や書籍が持ち直すか、電子書籍における漫画以外の売上を伸ばしていかないといつかは消えてしまいかねない状況に陥っています。出版業界が消えてなくなるとは考えにくいですが、ちまたの書店が建ち並ぶなんてことも下手すると過去の思い出になりかねないのが今の状態です。
紙と電子書籍の将来性
電子書籍が好調という話を続けてきましたが、先行しているアメリカでは電子書籍の売り上げが失速し、紙媒体に回帰する流れになっているというニュースが出ています。そのニュースの信憑性含めて一度参照してみます。
引用開始
かつてアナリストたちは、電子書籍は2015年までに印刷本を超えると予言したが、その代わりに最近はデジタルの売上が急速に鈍化している。現在は、電子書籍に飛びついた人々が紙の本に戻る、もしくはデバイスと紙の両方を使い分けるハイブリッド型読者になりつつある兆候が見られる。約1,200の出版社からのデータを収集している米国出版者協会によると、今年の最初5ヵ月間で電子書籍の売上は10%落ちたという。昨年は、電子書籍の市場占有率は約20%で、これは数年前と同水準だ。
(中略)
電子書籍の価格が高くなっていることも、読者の印刷本回帰を促しているかもしれない。ここ一年のうちに、出版社がアマゾン社と再交渉し、自社の電子書籍の価格は自ら決められるという新たな条件が導入された結果、多くの出版社が価格を上げ始めている。13ドルの電子書籍とペーパーバックの値段が大して変わらなくなったため、印刷バージョンに戻ることにした消費者もいるだろう。アマゾン社のサイト上では、ドナ・タート著「ゴールドフィンチ」のような人気書籍のペーパーバック版の中には、デジタル版より何ドルか安いものもある。米国出版者協会の報告によると、今年初めの5ヵ月間で、ペーパーバックの売上は8.4%上昇している。
引用終了
アメリカで電子書籍の売上が大失速!やっぱり本は紙で読む?
要するにAmazonと出版社の契約内容が変わり、電子書籍であれば安く買えるという状況から電子書籍も紙媒体でも大差はないという状態に陥り、であれば残る紙にしようと思ったがゆえに、電子書籍の売り上げが失速し、紙媒体の売上が伸びたということになります。つまり電子書籍で買うかどうかというよりも値段が同じなのであれば物として残る紙を優先するという消費者心理が働いています。結局のところ電子書籍か紙かというのは現時点においてまだ金額に左右される状況が続いており、真の意味で紙か電子書籍かという二択にはなっていません。金額という別軸の要素も複雑に絡み合って電子書籍の売り上げ規模は成長や停滞をしています。
漫画を中心に電子書籍はこれからも伸びていくでしょう。データとしても成長トレンドから外れてはいませんし、取り扱えるタイトルの数が増えていけばセールなどもしやすいことからしてまだまだ成長の余地はあります。そして一般書籍や雑誌においても電子媒体での販売冊数を拡大していくことが出来れば、これからも成長していくことは間違いないでしょう。電子書籍は今後成長していくVRなどとも絡めることが出来ますし、インターネットを利用してゲームなどの別コンテンツと連動もしやすくなっていけば更に成長することが予測できます。紙には紙の良さがありますが、電子書籍という新しい媒体はこれから出版業界が成長していくために避けては通れない分野であるのは間違いないでしょう。その成長のキーとなるのは漫画です。旧作の販売だけではなく、Web漫画からの電子書籍化など、新しい作品が更に増えていくことが必須です。そのためにもラクジョブでは漫画家さんが一人でも多く増えていくような手伝いをしていきたいと思います。