ゲーム産業後進国
2012年以降の日本のゲーム市場は、スマートフォンゲーム市場の拡大によって牽引されてきたと言っても過言ではありません。しかし近年ではユーザーの新規開拓、新規顧客開拓の競争激化によって、広告費や運営費の増大から収益をあげることがどんどん難しくなってきています。そうなると海外への展開を視野に入れなければなりませんが、ゲーム市場がすでに成熟したアメリカ、フランス、ドイツなどの振興国へマーケティングを仕掛けようとしても、日本で作られたゲームとの相性のことや、PCゲーム主体の海外のゲーム市場を鑑みるに、勝負を仕掛けるのはなかなか厳しい状況です。そんな中、インドネシア、ベトナム、タイなどの東南アジア諸国への進出に期待が寄せられています。日本のゲーム企業も2000年ごろからタイやシンガポールへ拠点を設けたり、若年層人口の増加や経済の拡大化に合わせて、シェアを獲得しようという動きが数年前から活発化してきているのです。
しかし、こうしたゲーム産業の海外進出がされていない地域があります。アフリカです。アフリカはどれくらいゲームが流通しているのかというデータを探すのですら困難なほどゲーム市場が未熟であり、今回取り上げたニュース記事では、地域によるゲーム産業格差が浮き彫りされています。
日本版ウォールストリートジャーナルに5月23日付で公開された記事に、「ゲーム業界に新風 アフリカ新興企業」というものがありました。ゲーム後進地域であるアフリカ。その国の一つであるカメルーン共和国に新興したビデオゲーム産業に関する記事です。
https://jp.wsj.com/articles/SB11031890582215644392604582083192554421560
(引用開始)
カメルーンの首都ヤウンデの丘にあるキロオ・ゲームズは国内で初めてソフト開発に取り組んでいる。それだけではない。世界で初めてアフリカをテーマにしたロールプレイングゲームをつくった企業の1つだ。マディバ氏は今春、4月の発売に向けて18人のアーティストやプログラマーと共に同社のデビュー作「オーリオン:コリ=オダンの遺産(Aurion: Legacy of the Kori-Odan)」を必死で完成させようとしていた。しかし開発チームの夢はゲームの成功にとどまらないという。マディバ氏は「ゲーム業界とアフリカをつなぎたい」と語った。
(引用終わり)
記事によればカメルーンでは現在ゲーム産業は存在しません。そうするとこのキロオ・ゲームズはカメルーン初のゲーム企業、ということになるのでしょうか。同時に起業した会社などがなければ、先行者利益も狙えそうですね。全くその分野について知っている人がいないうえに、インフラの整備が整っていないカメルーンでは、乾季になると大規模な停電が起きるということです。こうした電気やインフラの格差は、ゲーム産業がいままで発達しなかった主たる原因と考えても良いでしょう。中東地域などを中心に、日本のアニメや漫画が注目され始めている昨今ですが、そうした地域も日本やアメリカほどインフラが整備されているかといえばそうではありません。ゲームはアニメや漫画以上に電気があることが重要になってきます。ゲームを制作するとなると、電気がない環境では作ることはできません。究極的な環境!どのような段取りでゲーム開発をされているのかという点でも注目があつまります。
ゲームで多様性を伝える
さらに取り上げたニュースから読み取れるのはローカライズ、カルチャライズの重要性です。ゲーム開発にはアフリカ系の人が関わっている比率が少ないのです。先ほどの記事を引用させていただくと、
(引用開始)
米国のビデオゲーム業界は多様性に欠けることで知られている。カイザー家族財団の2010年の報告によると、8歳から18歳のアフリカ系米国人がゲームをする時間は同じ年齢層の白人と比べて1日当たり29分長い。ところが国際ゲーム開発者協会によると、ゲーム開発者のうちアフリカ系米国人の割合はたった3%で、10年間で1ポイントしか伸びていない。黒人のキャラクターがいつも同じように描かれていることにも不満が出ている。ゲームのデザイナーで大学教授のデレク・マンズ氏は黒人キャラクターについて「『ステレオタイプは出てこない』から『全く出てこないかもしれない』に変わった」と話す。
(引用終わり)
バイオハザード5などのゲームでは黒人を大量に殺害する描写が問題となりました。ゲームは「表現物」の一種です。その作品の中では開発に携わっている人たちの価値観が色濃く出てしまうものでもあります。ですから、人種差別的問題や、上記の黒人キャラクターのステレオタイプ化などは課題としてしっかり認識するべきなのです。また、アフリカのコミュニケーションに浸透していると言われている協力や尊敬に対しても報酬を出すということや、男女が平等で誰もが支え合う文化というものは、これまでビデオゲーム作品中で描かれる世界観ではあまり採用されないものであったと思います。ロールプレイングゲームというと多くは中世ヨーロッパがモチーフとなった荘厳な世界を採用しているものです。ゲームにとっても、アフリカにとっても相互に新しい風を吹き込むキロオ・ゲームズの今後の動向に期待が高まります。あらゆる文化でゲーム産業が発展していけば、ゲームは多様な価値観を、遊びを通して伝えてくれる媒体としても注目されそうです。
記事を読んでいただきありがとうございました。