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2016.06.01 アニメゲーム漫画クリエイター向け 『死刑の前』 新人山崎による暇つぶし読書案内

暇なら読書しましょう!

ビ・ハイア新人山崎が、休日や電車移動中、作業の合間などの暇な時間に読むのにぴったりな短めの著作を紹介します。今回紹介する幸徳秋水の『死刑の前』はとても短く、読みやすい割には様々なことを思わせてくれる作品だと思いますので、おすすめです。

2016-04-28 10.01.23死と向き合ったことはありますか

(画像は青空文庫より)

我々日本人が日常生活を過ごしている上で、死を意識するということは珍しいでしょう。むしろ平和な日本においていきなり死について考えだすと「お前は大丈夫か」などと心配されてしまうでしょう。しかし世界には日常的に死を意識して今を生きている人々が沢山います。日本人は生きるか死ぬかという窮地に立たされた時自分はどうなるのかということを考えずに生きてきた人が多いはずですが、世界から見るとそんな状態なのは先進国の人々だけで、発展途上国や戦争状態にある地域で暮らしている人、テロの標的に晒されている国家で暮らしている人は、偶発的に生命の危機が襲い掛かってくる状況で生活しています。死ぬ心の準備などが整っていないまま、爆風に巻き込まれたり、銃弾が飛んできたりする世界です。死と向き合うどころではありません。死というものに向き合うのにはそれなりの期間が必要だと思います。幸徳秋水の『死刑の前』は、明治時代、天皇家の命を狙って危害を加えたり、危害を加えようとする罪「大逆罪」に捉えられた思想家である7幸徳秋水が、獄中で死刑や自分の死、罪などに向き合ったエッセイです。

200px-KotokuShusui幸徳秋水とは誰か

幸徳 秋水は明治時代のジャーナリスト、思想家です。中江兆民の門弟であり、当時タブー視されていた社会主義や無政府主義に傾倒していきます。マルクスの共産党宣言を翻訳して発表するも即日発禁されてしまうなど、熱心な活動家であったことが伺えます。1910年、明治天皇を爆裂弾で暗殺しようとしていたことが発覚したことで「大逆罪」となり、多くの社会主義者や活動家と一緒に、翌年の1月に処刑されてしまいます。この大逆事件は「幸徳事件」と呼ばれ、大逆事件といえばこの事件を指すというほどセンセーショナルな事件でした。当時世界各国で共産主義者や社会主義者、無政府主義者による要人の暗殺事件、テロが多発していました。現在この事件は政府による事件の捏造があるとする説が濃厚に出ており、つまり、幸徳秋水は事件への関与が薄く、濡れ衣を着されられて処刑されてしまったと言っても過言ではないのです。

躍動感あふれる文章

濡れ衣に近い罪を被せられた状態で獄中で書かれたのが、この「死刑の前」というエッセイです。著作権が切れているので、Kindleで無料で読めますし、青空文庫でも読むことができます。

(引用開始)
万物はみなながれさる、とへラクレイトスもいった。諸行は無常、宇宙は変化の連続である。
その実体(サブスタンス)には、もとより、終始もなく、生滅もないはずである。されど、実体の両面たる物質と勢力とが構成し、仮現する千差万別・無量無限の形体フォームにいたっては、常住なものはけっしてない。彼らすでに始めがある。かならず終りがなければならぬ。形成されたものは、かならず破壊されねばならぬ。成長する者は、かならず衰亡せねばならぬ。厳密にいえば、万物すべてうまれいでたる刹那より、すでに死につつあるのである。
(中略)
思うに、人に死刑にあたいするほどの犯罪があるであろうか。死刑は、はたして刑罰として当をえたものであろうか。古来の死刑は、はたして刑罰の目的を達することにおいて、よくその効果を奏したか、ということは、学者のひさしくうたがうところで、これまた、未決の一大問題として存している。けれども、わたくしは、ここで死刑の存廃を論ずるのではない。今のわたくし一個人としては、その存廃を論ずるほどに死刑を重大視してはいない。病死その他の不自然な死が来たのと、はなはだ異なるところはない。

(引用終わり)

Stepping off a cliff ledge寿をまっとうできるならばそれがいいのかもしれないけれど、果たしてそれが幸せであるということは必ずしも言えない。病気もなく天寿をまっとうする人はほんの一握りで、貧しい人は病気や事故で死ぬ人のほうが圧倒的に多い。人の生き死にに価値が見いだされるのだとしたら、それは長さではなくどういう人生を歩み、どれだけ後世に影響を与えたかということに見いだされるのであって、長く生きたか、天寿を全うしたかということではないのだとすれば、死刑であるこは不名誉でもなんでもないから全くもって怖くないというのです。また、死刑による不名誉はその人間ではなく罪に対して持つべきものであるということも書いてあり、彼の死に対する思慮の深さが伺える著作です。私だったら、きっと濡れ衣を着せられたことに対して腹を立てながら死んでしまうと思います。自分がいつ死ぬとわかって暮らすこととはどういことなのか、自分にとって死ぬこととはどういうことなのかについて考えを深める良い材料になると思います。単なる開き直りには感じられない凄みがあります。

記事を読んでいただきありがとうございました!

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