ここでは、ラクジョブメルマガで会員の皆さんにお届けしている就職・転職に関するコラム(と、全く無関係に撮られた弊社の猫の写真)をお送りします! ちなみに本日の猫は「顔だけ出てる猫」です。本編とは関係ありません。
今日のテーマは「アニメ業界での労働環境は本当に過酷なの?」です。
今日は何かと話題になっているアニメ業界について取り上げます。
ラクジョブが立ち上がった頃からずっと「アニメ業界は労働環境が過酷なんでしょ?」という声がありました。最近ではアニメ会社の不祥事のニュースや違法な長時間労働が話題にもなり、外側からは業界の実態が疑問視されています。
実際、アニメ業界に興味がある人が一番気になるのが労働環境でしょう。これまで我々ラクジョブもいくつものアニメ会社とお付き合いをしてきました。現在求人を掲載中の会社さんもいくつもあります。そこで働く人たちの中には「アニメ会社の前にはTV番組の制作会社にいたけれど、それに比べれば労働環境は楽なくらい」というタフな意見から「希望を胸に会社に入ったけれど、試用期間中に自分がしんどくて転職を決意した」という声までさまざまなものがありました。しかしアニメ会社200社以上とお会いしてきた中で言えるのは「大変な会社も確かにあるが、大変にならないようにしている会社も確かに存在する」ということです。そして、働き始めてからの大変さは雇用に関しての知識が足りないために自らを追い込んでいるという例もあります。今回は「入る前に・転職する前に知っておきたいアニメ業界仕事事情」のお話を取り上げます。
【アニメ業界全体の売り上げは上がり続けている】
アニメ業界が過酷、というのはよく言われる言葉ですが、「過酷」の内容は一体なんでしょうか。
アニメという市場が年々縮小しており、制作してもなかなか売れないからやりがいがなく報酬も少ない…ということでは、ありません。日本動画協会の2018年度版「アニメ産業レポート」(リンク先は上グラフ出典元記事)によると年々アニメ市場は拡大を続け、5年連続でアニメ関連市場は最高値を記録しています。Netflixなどプラットオームが増えたことが理由の1つと推測されています。帝国データバンクが2018年に発表した調査「アニメ制作企業の経営実態調査」でもアニメ制作企業の収入高合計は、元請企業・下請企業ともに前年を上回る数値が出ています。ここで最新の数値として表示されている2017年は2016年よりもTVアニメタイトル数も少ないため、1社あたりの利益率も前年より高かった可能性もあります。
【制作進行という仕事、アニメーターという仕事】
最近、労基署からの是正勧告が話題となったアニメ会社の「制作進行」という仕事は正社員雇用が最も多い仕事です。正社員は、時間外労働について残業代が支払われます。一方アニメーターなど実際に描く方の仕事は業務委託契約がほとんどです(正社員のところもありますが後述します)。業務委託は、労働時間ではなく納品物の分量で報酬が決定します。アニメで言えば原画や動画の枚数ですね。動画は1枚数十円〜数百円、原画はメインどころになればなるほど1枚千円単位のものも、数万円単位のものもあります。キービジュアルなどアニメの全体的なイメージを決めるものであれば数十万円というパターンもあり、作画監督レベルの絵画構成力、画力があれば1枚描くだけで大きな収入になります。しかし動画マンの場合、特に初期は頑張って1枚描いても没が出ることが多く、何十枚も描いたのに大した収入にならなかった、という話はよくあります。
こう考えるとアニメーターの初期に技術不足から報酬が低いというのはよくある話だということがわかりますが、正社員として雇用される制作進行の給与が問題になるのはなぜでしょうか。
【なぜ労働環境が過酷になるのか?】
先月問題になったアニメ会社での過剰労働と労基署からの是正勧告に関する記者会見では、制作進行として雇われていたスタッフから「月に393時間労働、37日連日勤務だった」「固定残業代以上に働いていたが、追加の残業代は支払われなかった」という訴えがありました。
支払われなかった理由について会社側からは「過去からずっと払っていなかったから」「悪意を持っていたわけではない」という説明があったと言いますが、同時に今回訴えを起こしたスタッフの方からも当初固定残業代について正しい知識がなかったという証言もありました。自分の環境をおかしいと思って自分で調べてはじめて、支払われていない報酬があることに気づいたということです。
制作進行は、アニメーターの納品物が出来上がるまで待つ仕事です。先程説明した通りアニメーターは業務委託ですから、締め切りはあれど労働時間が厳密に決められてはいません。中には会社に出社する形ではなく自宅で作業をするアニメーターの人もいます。制作中にアニメーターの納品が遅れたり、場合によっては納品をせずに音信不通になるという話も珍しくありません。結果、制作進行は納品をできるまで働き続け、残業が増えることになります。作品のクオリティを上げるためにリテイクが出ることもあります。そうすればその分アニメーターへの報酬も増えますし、制作進行の仕事も残業も増えやすくなります。
【アニメ制作費と売上】
アニメの制作費用が低いからアニメーターが大変なのだ、という話を聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれません。TVアニメは大体1話が1000〜3000万円くらいの金額で作られています。1本あたりに関わる人数はネット上で検索すると100名くらい、という意見がほとんどですが、「200名」と答えるインタビューもあります。仮に3000万円の予算で150名の人数が関わったとすると、単純計算すれば1人あたり20万円がもらえる計算となります。しかし、前述したように予定にないリテイクや納品遅れ、それによって発生する制作進行の待機コストを含めると、3000万円はあっという間に超えてしまうでしょう。ただでさえアニメ本数が増えている昨今ですが、アニメーターの数も比例して増えているわけではありません。1人あたりのアニメーターが複数のアニメ作品を担当していれば、納品が遅れることは容易に予想されます。しかし1作品あたりの予算は変わりませんから、制作進行の待機コストが増え続ければ全ての作品が赤字となることも考えられるのです。
アニメが制作されてDVDやBlu-rayといった媒体が売れても、関連グッズやゲームが売れても、その売上は下請け会社や元請け会社には入ってきません。制作予算を出した配給会社、製作会社と言われる版権元に全て入ります。アニメ業界を知っている人なら製作委員会方式という予算の集め方をご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、製作委員会に元請けや下請けの会社が入ることはありません。売上が上がっても予算もアニメーターの数も大きく変わらないままのため、現場が疲弊するという悪循環が起こりやすくなるのです。
【全てのアニメ会社が過酷労働なのか?】
さて、ここからが本題です。アニメ会社は全てがその悪循環に飲み込まれて過酷な労働環境を余儀なくされているのでしょうか?
もちろんそうではありません。はみ出しがちな予算を補填するために単価の良い遊技機系の仕事を受けて全てのスタッフに適切な報酬を支払えるようにしている会社もありますし、クオリティと予算の高いオープニング映像やPVの制作のみを受けてスタッフ全員の長期的な負担を減らし、アニメーターも正社員採用しクオリティと社内の満足度をどちらも高めている会社、自社内で原作とアニメスタジオを持つことによって制作予算を調整できる会社、Netflix作品などの利益率の高い作品や長期的な作品を手がけることでホワイトな労働環境を確立した会社、社内に美術部門を置くことで制作進行の負担を減らす会社など、アニメ業界の現在に危機を感じて社内環境を変えている会社は沢山あります。
また、東映アニメーションやサンライズなど、アニメ制作以外に版権収入も入る会社は営業利益も高く、経営が安定しています。今回のようなニュースを受けて、働き方を見直すアニメ会社も少しずつ出てきました。アニメ会社は2000年以降に150社が新しく設立され、全体の約6割が新興の制作会社です。その中で少しでも良い環境を作ろうという会社は数多くあります。現在アニメ業界への就転職を悩んでいる方は、業界を一括りにせず、会社それぞれの努力や試みにも目を向けることで将来が開ける可能性もあります。アニメゲーム漫画専門の求人サイトを運営している立場からも、そういった会社を皆さんが見つけられるように今後も企業のご案内をしていければと思います。
次回は「”パクリ”はどこから?オマージュとの線引き」について!
★文中に出てきた「ホワイトにするための努力をしている会社」の求人一覧★
・はみ出しがちな予算を補填するために単価の良い遊技機系の仕事を受けて全てのスタッフに適切な報酬を支払えるようにしている会社→株式会社Project No.9/制作進行・デスク募集
・クオリティと予算の高いオープニング映像やPVの制作のみを受けてスタッフ全員の長期的な負担を減らし、アニメーターも正社員採用しクオリティと社内の満足度をどちらも高めている会社→株式会社ポイント・ピクチャーズ/制作進行募集・アニメーター募集
・自社内で原作とアニメスタジオを持つことによって制作予算を調整できる会社→株式会社ウェイブ/アニメーター募集
・Netflix作品などの利益率の高い作品や長期的な作品を手がけることでホワイトな労働環境を確立した会社→株式会社しいたけデジタル/3Dアニメーター募集
・社内に美術部門を置くことで制作進行の負担を減らす会社→株式会社パインジャム/制作進行募集
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