先日とある映像制作会社の社長から気になる話を聞きました。
「この前アニメゲームマンガ業界経営者交流界TOP300サミットに来ていた会社の人と知り合いになってさ。急ぎの仕事があったから、試しにその会社経由で中国のスタジオにMayaのキャラクターモデリングの仕事を依頼したんだけどね、こりゃやっぱり無理だったなって思ったよ。もともと見せてもらったサンプルがリアル系で等身高めのキャラとかばっかりだっから。できますっていうから頼んでみたんだけど、あがってきたモデリングデータはクリーチャーみたいになっちゃってたよ(笑)あの独特の感性を3DCGで表現するってなかなか難しいね。しばらくは国内じゃないと難しいだろうな。」
ここまでの話はよく聞く話で、私も
「あら〜、やっちゃいましたね。よく聞きますよ。リアル系とか背景とかそのあたりは良いんだけど、どうしてもいわゆる美少女系とか萌え系のモデリングは手直しが多すぎて一からやった方が早く、出して失敗したって話は。今度出すならリアル系の案件きたときですね。あとはモーションとかならまだいけるかな?」
と答えたんですが、ここから興味深い話に。
「そうなんだよね、やっぱりその辺のモデリングは国内だな。でもね、この前中国の人に話を聞いて実際に見せてもらったんだけど、2000年生まれ近辺のちょうど中学生〜高校生ぐらいの年齢の子の絵は、何も言わなければ日本人が描いたんじゃないの?っていうぐらい同じクオリティのものが描けてるよ。かなり絵がうまい子も多かったし。5年か10年もしたら、そのあたりの垣根さえなくなって全部中国とか海外に発注できるようになるだろうね」
気になったので、日本のコンテンツの輸出状況はどうなっているのか、中国をはじめ海外の動向はどうなっているのか調べてみました。まずは国内コンテンツの海外売上の推移について見てみましょう。
日本のアニメ制作会社による海外販売売上(主にライセンス売上)は、近年大きく落ち込み、ピークであった05年(313億円)、06年(312億円)の半分程度となっている。展開先の地域は、アジア(39%)が中心であり、次いで欧州(21%)、北米(11%)となっている。
2011年の家庭⽤ゲームの海外総出荷⾦額規模は約1兆0,546億円であり、国内も含めた総出荷⾦額規模に対す
る割合は7割を超えている。ハードウェアに関する展開先の地域は、⽶国(46%)と欧州(43%)が⼤半を占める。
経済産業省商務情報政策局文化情報関連産業課「コンテンツ産業の現状と今後の発展の方向性」P.8より
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/contents/downloadfiles/1401_shokanjikou.pdf
この表を見る限りアニメに関してはライセンス売上なのでライセンス料が10%とした場合、海外市場の売り上げ規模は2012年で1,500億円前後と推測されます。またゲームソフトの海外売上はピーク時の2007年、2008年から減少して2012年こそ2,041億8,800万円となっていますが、ピーク時の2008年では5,000億円以上の売上がありました。中国の話に限ったことではありませんが、日本のコンテンツが海外にどんどん輸出され、さらにPCとWindowsの普及、2000年以降のインターネット回線速度が向上したことにより、映像作品であったとしてもWeb経由で視聴することも容易になってきました。
総務省「電気通信サービスの契約数及びシェアに関する四半期データの公表(平成25年度第4四半期(3月末))」により作成された国内のデータを参照するとブロードバンド契約数は平成19年の2,875万件から一気に増大し平成25年には8,973万件まで拡大しています。
平成26年度情報通信白書 第2部 情報通信の現況・政策の動向参照
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h26/html/nc255210.html
同時に海外の状況はというと、やはりこちらも各国共に積極的にブロードバンドの整備が進んでいます。
EU
欧州委員会は、2010年5月、欧州デジタル・アジェンダの行動計画を記したコミュニケーションを発表した。その中では全体目標として、「超高速インターネット及び相互接続可能なアプリケーションを基盤とする『デジタル単一市場』の創設から、持続可能な経済的、社会的便益が得られるようにすること」を掲げている。また、目標として、2013年までに、すべてのヨーロッパ人が基礎的なインターネットを利用可能とし、また、2020年までに、①すべてのヨーロッパ人が30Mbps以上の高速インターネットを利用可能とするとともに、②50%以上のヨーロッパの世帯が100Mbps以上のインターネット接続に加入することを掲げている。
中国
2010 年3 月、工業・情報化部等7関係政府部門は、光ファイバ網整備の推進目標として3年間に1,500
億元(約1兆8,600億円)以上を投じ、新規加入者5,000万の獲得を目指す等の方針を発表した。第12次5か年計画では、超高速、大容量かつインテリジェントな国家基幹伝送ネットワークの構築、ブロードバンド無線都市の構築の推進、都市のFTTHの推進、農村地区でのブロードバンドネットワーク建設の加速等により、ブロードバンド普及率及びアクセス帯域幅を全面的に向上させるとしている。
韓国
李明博政権の国家総合IT戦略として、未来企画委員 会、放送通信委員会(KCC:Korea Communications
Commission)及び知識経済部は、2009 年 9 月、「IT
コリア未来戦略」を発表した。ITが未来の成長エンジンとして発展するべく、① IT
融合産業、②ソフトウェア、③主力IT機器、④放送・通信、⑤インターネットを5大中核戦略として育成し、2009年から13年までの5年間で189兆3,000億ウォン(約13兆6,300億円
内訳:政府14兆1,000億ウォン(約1兆200億円)、民間175兆2,000億ウォン(約12兆6,100億円))を投資するとしている。
インド
インド電気通信規制庁(TRAI:Telecom Regulatory Authority of
India)は、2010年12月8日、「国家ブロードバンド計画」に関する勧告を発表した。この勧告は、2010年6月時点で普及率0.74%と低迷するインドのブロードバンドの状況に鑑み、インドの今後のブロードバンド発展のための政策を検討することを目的として、インド通信IT省がTRAIに要請したものであり、その後通信IT省において国家ブロードバンド計画策定の作業が進められている。同計画では、ブロードバンドが国の成長を大きく促進するものであるとし、ルーラル地域の人々に対する行政サービスと意思決定プロセスの提供、遠隔教育、遠隔医療、オンラインバンキングの提供等の内容が含まれている。具体的には、人口500人以上のすべての集落にオープンアクセスの光ファイバ網を提供することが挙げられている。この計画は2段階をとっており、まず2012年までに都市部および主要な村落(グラム・パンチャヤート)に対して、次に2013年までに人口500人以上の村落に光ファイバを敷設するとしている。
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h23/pdf/n4080000.pdf
通常のパッケージ販売に加え、オンデマンドの配信、そしてこれはあまり数には加えたくないですが、違法アップロードによるものを考えれば、今や日本のコンテンツはリアルタイムに近い形で世界に配信されています。そしてそれまで日本人にしか出来ないといわれた萌え系などのコンテンツについても、マンガはもちろんのこと、イラストやモデリングといった部分まで海外でまかなえるようになってきている、またはその兆しが見え始めています。もともと得意分野であったリアル系のキャラクターや背景は当然として、国内のデザイナ−、イラストレーターは今後ますます海外のクリエイターと真っ正面から勝負を挑まれることになっていきます。逆に国内で活躍するクリエイターが海外でも勝負できると言い換えることも出来ますが、海外には海外で受け入れられるテイストもあり、国内向けのイラストだと話にならない可能性があります。
今後クリエイターとしてやっていくのであれば、国内で有数のクリエイターとして名をはせるか、ハイクオリティハイスピードで作品を納品できるとか、世界で受け入れられるテイストの作品が作れるとか、これだという何か光る物を持って勝負を挑む必要があります。その辺の人と大差有りませんだと、今でさえ仕事が回ってきにくいのに、さらに進んで仕事がしたくても出来なくなってしまいます。それがそこそこ腕の良いクリエイターという人達にも降りかかる未来が刻一刻と迫っています。
最後に冒頭の社長がため息混じりにいっていた言葉を引用します。
「うちのスタッフにもずっと同じこと言ってるんですよね。なにか光るものを持っていないとそのうち仕事がなくなるよって。発注側は安くて早くてクオリティが高いところがあったらそっちを使うに決まっている。海外相手に価格勝負はできないし、サービス面でなんとかしないと負けるのは目に見えてる。今自分のスキルを必死になって磨いておかないと10年後別の仕事をすることになる。デザイナーとかプログラマーとかで食っていきたいなら、今やらないともう終わりだよ、ってね。どこまで伝わっているかはわからないですけどねぇ・・・。」
逆にこれは福音ともいえます。なぜなら来るべき未来に向けて事前に準備が出来るのだから。一番絶望するパターンは気づいたら仕事が海外に流れていて、国内の仕事は一部の優秀なクリエイターしか受けられず、多くのクリエイターが職を失い、どこを回っても仕事がないという状況になっていることでしょう。そんな状態になるまでにまだ時間はあります。それが3年後なのか5年後なのかわからないですが、それでも未来に対しての備えをしておいて損はないというか、準備していなかった人達よりも一歩先へ進んでいるかもしれません。それは技術の向上はもちろんのこと、新しいツールなのか新しい技術なのか、マネジメントスキルなのか方向性はいろいろあると思いますが、クリエイターが国という垣根を越えて入り乱れるとき、新しい作品が生まれるきっかけになるでしょう。それは業界の発展にもなるし、今からどんな作品が生まれるのか非常に楽しみです。