有名イラストレーターの動向から見るイラストレーターの最終到達点は?

shutterstock_360195320多様化するイラストの種類と発表の場・・・最終地点とは?

ソーシャルゲームやネイティブアプリのブーム以降、ゲーム業界ではイラストの需要が急激に増加しました。リアル系、デフォルメ系、萌え系、モンスター、ロボット、塗り方も配色を抑えたアニメ塗り、肌に光沢を付けるなどのエロゲー塗り、とにかく重厚感を出すために多彩な色とグラデーションをかけた厚塗り系など、様々なテイストのイラストの需要が爆発的に増加しました。それに伴って、最近では、イラストレーターを目指す女性の方が増えているという報告もあります。※1

ではイラストレーターは最終的にどこを目指しているのでしょうか。有名ゲームタイトルのキャラクターデザイン、原画集の販売、個展などなどがあると思います。じゃあそれすら達成してしまったらイラストレーターはどんなことを考えているのでしょうか。そんなお話です。

aokiume盛んに開催されるイラストレーター個展

最近では、「ひだまりスケッチ」の原作漫画や「魔法少女まどか☆マギカ」のキャラクター原案に携わった蒼樹うめ先生が上野の森美術館の特別展として「蒼樹うめ展」※2が催されたり、中野のギャラリーでは、なつめえり先生やいとうのいぢ先生による個展がの開催されました。※3
kamiesai大規模なものでは、アールジュネス主催の「神絵祭」(旧、ジャパンイラストレーターズフェスティバル)や産経新聞社主催の「絵師100人展」などが定期的に開催されています。そのような点でもイラストレーターとして自分の作品を展示するという機会は増えてきている印象があります。ではこのような方たちはどんなこと思っているのでしょうか。次のステップとして何を望んでいるのでしょうか。

shutterstock_124521184手に取れるものだからこそできる表現を突き詰めたいイラストレーター心

先日、神絵祭を主催しているアールジュネスが経営する「アールジュネス秋葉原展」を訪問して聞いたお話ですが、イラストレーターさんの中には、パソコン上のイラストではなく、手にとって見ることのできるものを作りたいという意見があったのです。もしかしたら、えっ、と思うかもしれません。画集や同人誌、ポスター、タペストリー、その他の様々なグッズを始めとした商品が出回っている中、手にとって観れるものがないというのですから・・・。ただ、イラストレーターの技術が上がれば上がるほど、細部へのこだわりはどんどん高まっていくものです。構図や装飾、配色や光の当たり具合などの影の濃淡や色のグラデーションなどなど、他にもいろいろあると思いますが、全てはパソコン上でなんとかできる問題です。問題となるのが、この後の工程の印刷です。いくら解像度をあげようが、紙をよくしようが、光沢をつけようが、どうしても難しい部分があります。それが、インクです。一般のプリンターでは、黒、シアン、イエロー、マゼンダの4色、私が簡単に調べて見つけたのが10色の業務用の印刷機、インタビューしたスタッフいわく24色の業務用の印刷機までならあるようです。ここで問題なのが、インクがない部分の色に関してです。例えば、緑を作ろうとした時、一般のプリンターではシアンとイエローを混ぜて作ります。そのため、インクジェットであれば、吹きかけるインクの粒の大きさ、トナーであれば粒子の大きさが出てしまい、モザイク状にみて緑に見えるだけであって、本来の緑になるとは限らないです。そもそもパソコン上で表現できる色は、24ビットの1677万7216色です。さらに詳しく説明するとパソコン上では、色は0からFまでの16進数の6桁で表記され、上2桁で赤の強さを256段階、中の2桁が緑の強さを256段階、下2桁が青の強さを256段階で「000000」の黒から「FFFFFF」の白まで表します。そのため、24色の業務用の印刷機を使ったとしても1677万7186色の色は、印刷機がプログラミングして作り出した仮想の色になります。それに印刷する素材が、紙なのか光沢紙なのか布なのかでも色味が変わってきてしまうでしょう。イラストレーターさんの中には、出来上がってきたものに関して、自分がイメージした色でないものになって上がってきてがっかりしてしまうケースもあるようです。

wk_150507toukaidou01版画が現代に受け継がれ見直されています

そんな色味にまでこだわっているイラストレーターがやっているのが、版画です。先ほど紹介した、アールジュネスではイラストレーター専門の版画を作ったり、常設で展示を行っています。私が最初に訪れたのが、10年以上前の話ですが、その時は10名ほどのイラストレーターの作品しかありませんでしたが、現在では、60名ほどまで人数が増えているそうです。版画の技法は、塗料を何層にも渡って重ねていくことによって、一枚の絵を仕上げていく方法です。こちらの業者曰く、そのために使用する塗料が約11000種類用意されており、パソコンの色の種類には及ばないものの24色を混ぜ合わせて作られる印刷物よりも自分の想像した色を出すことができるそうです。また、何十、何百という層で色を重ねていくため、重ね塗り独特の深みも表現できます。

1601nanao現代イラストレーターたちの表現は芸術へ

そのようにして、色の1つ1つからこだわって作った作品はもはや芸術の域に達するものになってきます。ライトの当てる方向、角度、強さで違った表情を見せますし、作品を見る距離感によっても作品から受ける印象が変わってきます。これはパソコンの画面上では感じることのできないものです。かわいいとか、綺麗とかだけでなく、そのような色々な見方ができつつ、可愛さや綺麗さだけではない抽象的な良さを生み出していけるかがイラストレーターとしての次なるステップとなるでしょうか。イラストレーターという依頼された仕事こなす職業から独自の世界観を持ち、オリジナルの絵を持って人を魅了できたとき芸術家やアーティストとして一段上の存在になれるのではないでしょうか。そのような方たちによって作られた作品がどんどん増えていけばいいなと思っております。※4

※1:芸術系大学出身者と労働 喜始照宣(日本労働研究雑誌より 2014年発行)https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2014/04/pdf/050-053.pdf
※2:https://www.umeten.jp/
※3:東京・中野で「夏のイラストレーター個展祭」 なつめえり、いとうのいぢらのイラストを展示https://ebook.itmedia.co.jp/ebook/articles/1507/13/news085.html
※4:アールジュネス主催のイラストレーター版画展 https://www.artjeuness.net/