ゲームアプリの進化とゲーム業界の変化
今、ゲーム業界は大きな変革を遂げつつあります。コンシューマーゲームからゲームアプリへ。パッケージ売り切りから基本無料の課金モデルへ。それに伴ってゲーム開発で重要視されるものも変わりつつあります。それが開発力から運営力への転換です。面白いゲームを作ればそれでOKという時代から遊び続けられるゲームを作るためにはどうすればいいかという工夫が必要とされるようになっています。コンシューマーゲームはパッケージを買ってもらえればそれで売上は上がりましたが、ゲームアプリはまずダウンロードしてもらう、次に遊んでもらう、最後にもっと楽しく遊ぶために課金してもらうという3つのハードルを越える必要があります。そして恐ろしいことに、これまでのコンシューマーゲームの開発を行っていた下請けのデベロッパーは、直接売上に繋がる宣伝広告、営業の部分には一切かかわらず、開発の部分だけを行っていました。つまりゲームが売れなくてもデベロッパーに責任はありませんでしたし、ゲームが売れてもデベロッパーが称賛されることもありません。
職人のこだわりでゲームは売れない……
ゲーム業界には初動率という言葉があって、コンシューマーゲームの初週販売数の割合のことを言います。例えば、SQUARE ENIXさんの「FF12」は初週で180万本売れましたが、累計販売本数は230万本に留まっています。初動率約80%です。1週間でゲーム評が出そろい、それがすぐに世界中の人にリーチして売上に影響したということは考えずらいです。ゲームが面白いかどうかわからないにもかかわらず、約80%の人が「面白そうだから」購入したという風に言えるかと思います。それに対して、任天堂さんの「脳を鍛える大人のDSトレーニング」は、初週販売数こそ約4万本でしたが、このゲームが一躍脳トレブームの火付け役となり、累計販売本数380万本を達成しました。初動率にすると約1%。広告宣伝、PR、マーケティング、ブランディングがいかにゲームの売れ行きを決めており、ゲームの面白さがいかにゲームの面白さに関係ないかということがわかるかと思います。そもそも考えればわかることですが、いくらプレイしてゲームが面白かろうと2本同じゲームを買うような奇特な人は多くはないはずです。コンシューマーゲームの売上は99%が面白かったからではなく、面白そうだったからという理由で決まっています。
新しいゲームの売り方がわからない
しかし、オンライン要素が加わり、運営という概念が生まれ、基本無料のビジネスモデルが確立されてからゲームのあり方は変わりました。ダウンロード、プレイ、課金という3つのハードルを越える必要が出てきました。その一番最初のダウンロードが言わばコンシューマーパッケージでいうところの購入に当たり、コンシューマーであればこの時点で売り上げが上がっていたのですが、基本無料のゲームアプリの場合、この時点での売上は0円です。ダウンロードしてもらってプレイされて楽しいなぁで満足されても売上は0円です。楽しいから課金してでももっと楽しみたいと思われて初めて売上になります。開発だけしか行ってこなかったデベロッパーの中には、どういう運営をすれば、プレイヤーの気持ちをそこまで導けるのか想像もつかないという会社も少なくないのでしょうか。
ゲームアプリが注目を浴び始めてから4年近くが経ちますが、これまでにゲームアプリの運営経験を積んできた会社とこれまで開発しか行ったことのない会社とでは、クライアントになるパブリッシャーの印象にもかなり差がつくようになりました。「○○というタイトルを○○年間運営していました」という会社と「まだ運営の経験はありませんが必ず成功させてみせます」とでは、営業、案件の獲得にも違いが出てしまいます。今から運営経験のない会社が運営実績を作るためには、小さくてもいいから自社で1本ゲームアプリをリリースして運営するかチームごと出向して協業に近い形でクライアント側に監督してもらいながらチームにノウハウを蓄積するかのどちらかが一番手っ取り早いのではないでしょうか。
手遅れになる前に!
そしてこれは、転職を考えているクリエイターにも言えることです。運営プランナーとしてイベント企画をしたことがある人とない人、アートディレクターとして運営タイトルのための定期的な発注を管理していた人としていない人、サーバーエンジニアとして爆発的なプレイヤーの増加に対応してことのある人とない人、運営ディレクターとして多数のタイトルを担当し売上の上げ方を知っている人といない人、どんな職種に関しても運営にかかわったことがあるかないかが大きな差になっています。特に売上の上げ方をノウハウとしてわかっているディレクター及びプランナーはどの会社でも引く手数多です。
気を逃さずに今勝負してください
そして幸いなことに、採用の方はまだ営業ほどシビアな状態ではありません。これから運営タイトルの実績を積むことも十分可能です。しかし、今経験しておいたかどうかという差が将来的には大きな差になります。そしてその差に築いた時には埋めようがなくなってしまっているという展開も十分に想定できます。転職を考えるのであれば、その会社が運営ノウハウの豊富な会社か、じぶんも運営にかかわる仕事ができるか、という視点で転職先を決めることが将来的にも必要とされ続けるための第一歩です。