なぜアニメゲーム漫画が”推された”のか?
この夏はリオ五輪で話題が尽きない毎日でしたが、オリンピックの最終日である先日の閉会式は特に大きなニュースとなりました。閉会式に流れたプロモーション映像では世界的にも人気がある日本のキャラクター、キャプテン翼やキティちゃん、ドラえもん等が登場し、メインとなるラストシーンでは安倍晋三首相がマリオに扮して閉会式に現れる、という演出がされました。アニメゲーム漫画を愛している人だけでなく子供の頃からこういったコンテンツに触れてきた人達にとっては、とても嬉しい演出だったのではないでしょうか。「過去アニメやゲームは虐げられていたが、こうして国から推してもらえるとは」と感慨深く語ったラジオパーソナリティさんもいました。
この事自身は、とても喜ばしくアニメゲーム漫画ファンとしてもテンションが上がる出来事です。しかし、これを冷静に分析にしてみるとどうでしょうか。当然の話ですがオリンピック・パラリンピックは「政治が関係する祭典」です。そこで「日本」を代表するプロモーション映像に「日本を象徴するアイコン」としてアニメゲーム漫画作品が取り上げられた事にはどういった意味があり、また今後どういった影響があるのでしょうか。
出演したキャラクター達の金銭的影響力
今回の閉会式で使われた映像に出てきたアニメゲーム漫画関連のキャラクターは、「ハローキティ」「キャプテン翼」「ドラえもん」「スーパーマリオ」(順不同)です。アニメゲーム漫画に少しでも通じている人であれば、この4つのタイトルが海外でも高い人気を得ている事は知っているでしょう。ハローキティの版権を持っている株式会社サンリオは、2010年時点で国内のキャラクタービジネス売上が約1650億円、世界では約5400億円と算出しています(2010年時点での証券アナリスト向け会社説明資料より)。キティはサンリオの一版権にすぎないので、キティちゃんだけでこれだけの売上を上げられているわけではありませんが、世界的にもよく知られているキティちゃんの売上が数億円規模ということは考えにくいでしょう。
また、ドラえもんやキャプテン翼については会社からデータが公表されていないため正確な金額は分かりかねますが、ドラえもんは漫画だけでも累計1億部、キャプテン翼も国内外で8000万部売れているというデータが出ています。スーパーマリオも関連ソフトがこれまでに5億本が世界では売上げており、世界累計販売本数が2億本というポケットモンスターの2倍以上の成果が出ています。つまり、名実ともに「世界にアピールできるコンテンツ」がリオオリンピックの閉会式では出演したと
いうことです。しかし、本当に「日本が世界にアピールできる」コンテンツはアニメゲーム漫画が最大のものだったでしょうか?このチョイスには、日本がアニメゲーム漫画を「推したい」理由が見えてきます。
期待される「経済効果」
ここで、国内の他の産業に対しても目を向けてみましょう。例えば高い技術力を誇る日本の自動車産業は、2015年時点での出荷総額が52兆円とされています( 自動車産業を巡る構造変化とその対応について 平成27年11月 経済産業省 製造産業局 自動車課)最大手であるトヨタは海外展開において、2013年だけに絞っても748万台を生産しています。1台平均して200万円としてもこれだけで4.96兆円の売上。国内売上を足さずとも既に、サンリオもマリオもかなわない数値です。経済産業省が2013年に発表した「工業統計調査」によると、二輪車、車体・付属車、部分品・付属品を含む自動車産業の市場規模は57兆7,339億円とされています。
一方のアニメゲーム漫画業界市場はどうでしょう。データを調べると、国内ゲーム市場規模は1.2兆円(ファミ通ゲーム白書2015)、アニメは産業規模レベルでも約1.4兆円(アニメ産業レポート2012)、そして漫画市場は約3600億円(出版月報2014年2月号)。それぞれ調査年度が一致はしていませんが、大きな変化は無いと考えてもせいぜいあわせて3兆円くらいの市場規模しかありません。
しかし、伸び率についてはどうでしょう?日本の基幹産業は主に自動車産業を含む製造業と言われますが、輸出台数は2009年から46%も落ち込んでいます。もちろんそれによって基幹産業から外れることはありませんが、アニメゲーム漫画の市場はここ数年特に目覚ましく成長してきました。前述のゲーム市場規模だけでも、国内で1.2兆円の市場規模というのは同じ2009年から比べれば約1.5倍です。アニメ作品の放映・上映本数は年々増え続け、日本のアニメやゲームを理由とした海外からの観光者も増え続けています。こういった動きから「クールジャパン」としてコンテンツが推されていることは誰もが知っています。こういったことからわかるのは、アニメゲーム漫画業界は「経済効果」という意味で期待が持たれており、日本の基幹産業までとは言わずとも国内外に多くアピールすることで更に経済活性化に繋げられることを国から期待されていることが読み取れます。
アニメゲーム漫画に近づく可能性がある危機とは?
こういった動きはアニメゲーム漫画業界に対して好ましく思われる一方、もちろんリスクもあります。それは以前の山田前議員インタビューでも触れたとおり「世界に向けるもの」として規制が生まれてしまったり、自主規制が始まってしまう危険性です。日本のアニメゲーム漫画は、元がニッチだったことも影響して、二次創作など独自の文化、アングラ的なものも取り込んで複雑に発展してきました。しかしそれが日本の世界へ対するアピール要因となれば、どうしても軽々とアングラ然としたものを前に出すわけにはいきません。海外のファンが受け容れやすいコンテンツをアピールして産業としての発展を目指す一方で、固有の進化を続けてきたアニメゲーム漫画コンテンツが圧迫されてしまわないよう注意をしなければ、政府がそのコンテンツの実態や文化の内容を深く認識しないままでは、以前書いたように「同人誌を違法扱いにする」「BLを規制する」というような過度な規制につながりかねません。これに対して私たちができることは、消費者であれば規制に対してTwitter上だけでも良いのでNOと声を上げること、山田前議員が始めるような消費者団体からでも政府に対して声を上げることなど沢山あります。せっかくであれば、アニメゲーム漫画業界やファンが笑って2020年を 迎えらえるように、今からでも準備しておきたいものです。