企業によっては、ある種慣例化となっている「サービス残業」ですが、この度、日本リーガルネットワーク代表の弁護士、南谷泰史氏によって、サービス残業の証拠を残すためにアプリが開発されました。今回は、日本におけるサービス残業の実情と受託ゲーム会社がサービス残業になってしまう本当の理由に関して書いています。
「サービス残業」をなくせ 弁護士がGPSで「残業の証拠を残すアプリ」開発
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160606-00000001-wordleafv-soci&p=1
引用はじめ
スマホのGPS機能を用いて、残業時間を自動的に記録する無料のアプリ「残業証拠レコーダー」は、日本リーガルネットワーク(東京都千代田区)が、2016年5月にアンドロイドアプリとして公開。近日、iOS版も公開する予定だという。
引用終わり
サービス残業
他の会社の従業員の方と話す機会があった時に耳にする「サービス残業」。労働時間外にもかかわらず働かせ、加えてそれに対する賃金を払わないことを指します。しかしながらサービス残業はれっきとした違法行為になります。労働基準法によれば、使用者は時間外や休日に働かせた場合、割増賃金を支払うことを義務付けています。またこれに反した場合は6か月以下の懲役若しくは30万円以下の罰金という刑事罰の対象となります。またこのような残業代は後からでも請求することができ、その期間は二年前まで遡ることが可能です。加えて、裁判所に未払いの残業代を請求するときは「付加金」として追加で請求できるため実質2倍で請求できるというメリットがあります。
日本労働組合総連合会では、1か月の平均サービス残業時間に関して調査を行っております。期間は2014年10月31日から11月5日で、20から59歳で働く男女3000名にインターネット経由でアンケートを取ったとのことです(サービス残業の経験がある人は42.6%――働いた時間は?)。
引用始め
サービス残業をしたことがある人に、1カ月の平均的なサービス残業時間を聞いたところ「10時間未満」(59.7%)がトップ。次いで「10時間~20時間未満」(16.8%)となり、平均時間は16.7時間。正社員の役職別にみると、一般社員18.6時間、主任クラス19.6時間、係長クラス17.5時間、課長クラス28.0時間となり、課長クラス以上が他の役職に比べて長いことが分かった。
引用終わり
このような結果となり、社会人の半数近くの42.6%がサービス残業の経験があり、人によっては60時間ものサービス残業を強いられているということがわかります。
残業証拠レコーダー
しかしながら、定時になり、タイムカードに退社の打刻をしてから残業しろなどというケースもあるため、サービス残業の証拠をなかなか残せないという現状がありました。そんな悩みを解消するために弁護士である、日本リーガルネットワーク代表の南谷泰史氏によって、サービス残業の証拠とするための無料アプリ「残業証拠レコーダー」を開発し、Android版で公開されています。こちらは、GPSの機能によって自分の位置情報と労働時間を自動的に記録し、会社側に残業代を請求する際の証拠として用いることができるようにしたアプリになります。また、このアプリでは、最初に10個ほどの質問に答えるだけで自分の残業代の概算を知ることができる機能や、営業先の住所を登録することによって営業職の方でも労働時間を計測することが可能とのことです。
今回のこのようなアプリは、会社から強制的にサービス残業をしろ、もしくは職場全体でそのような雰囲気になっている企業に関しては有効となるでしょう。しかしながら、残業代が出る場合は出る場合でのデメリットもあります。アニメゲーム漫画業界では、クライアントの要望に答えながらも、新しいものを生み出す仕事になります。また、クリエイターによってはこだわりが強く、納得のいくところまで時間をかけ、ついつい残業してしまうような職人気質の人もいます。ただ、しっかりと残業代を払っている下請け企業にとっては、その負担はかなりのものになります。クライアントとの契約や労働者との契約内容にもよりますが、正社員がゲーム開発を行っている場合、多くの場合は人月単価で計算され、1日8時間、20営業日で計算されます。そのため、残業をしてしまうとその分の利益が減ってしまいます。さらに言えば、1人月80万の仕事を請けていたとして、受託開発ソフトウェア業界の利益率は5%(TKC経営指標 )なので、一ヶ月1人分の利益は4万円、これでもし、月給30万円のクリエイターがいたとして、時給換算約1900円、その方が1日1時間残業したら、月に3万8000円の残業手当がついてしまうため、それだけで利益が2000円にまで落ち込んでしまいます。つまりあとちょっとという思いで行った毎日1時間の残業が積もりに積もって、利益の95%をなくしてしまっているということは衝撃の事実です。これでもし、もう1時間追加で残業すれば利益はほぼなくなりますし、さらに残業すれば、赤字経営に陥ってしまいます。
仮にもし、全ての人が、「残業をチェックするアプリ」をダウンロードし、サービス残業代を全て請求するようになったとなれば、薄氷のような利益の中で経営している企業は間違いなく倒産に追い込まれるでしょう。また、アンケート調査より約半数がサービス残業があることを考慮すると、倒産件数も万単位の規模にもおよぶでしょう。だからこそサービス残業が平然とまかりとおったり、あきらめてサービス残業をさせたりと、そのようなブラック企業が残っているのです。しかし従業員としても会社が倒産し、職を失ってまでも残業代を支払って欲しいとおもわないでしょうし、そのような倒産によって、日本としても多くの雇用の喪失に繋がってしまいます。
この問題は、会社の経営や働く仕組みの根底に関わることで大変難しい問題です。そのため、すぐにどうこうできる問題ではありませんが、それでも私たちはその問題を解決できるよう常に考え続けております。