安倍晋三首相が夏の参院選を「6月22日公示-7月10日投開票」の日程で決めました。こちらは大手各メディアに報道されているので皆さんもご存知だと思います。合わせて衆参同時選挙として国民の信を問いたいという意識もあった様ですが、先日の和歌山県御坊市にて敗北を喫したこともあり先伸ばしたという見方をされています。和歌山県御坊市で行われた市長選で票を争ったのは自民党の二階総務会長の長男俊樹氏です。
実は和歌山県御坊市では今回出馬した二階氏の名前をあしらった「二階王国」と言われるほどに盤石の態勢が整えられており基本負けるということは考えられない中での敗北です。そうした背景もあり、解散総選挙ではなく参院選のみになったと推測されます。今回参院選のテーマの一つとなっている「消費税増税延期」については首相と麻生財務相で濃い議論が行われた様です。以下6月3日朝日新聞より
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消費増税を先送りするなら、信を問わなければなりません」と麻生氏。「参院選で信を問えばいいじゃないですか」。そう返す首相に「政権選択を問うのは衆院選に決まっています」。前回の先送り時は衆院を解散したのに筋が通らない、と畳みかけた。それでも、首相は首を縦に振らなかった。「総理がそこまで言うなら、わかりました。孤独なのはわかりますから」。どす黒いまでの孤独に耐えるだけの体力、精神力が欠かせない――首相在任中に麻生氏が語った言葉だ。トップの「重圧」を理解し、最後は麻生氏が折れた。
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信を問う場合というのは基本的には参院選は対象ではなく、衆院選が対象となります。今回のケースは極めて稀なケースでどちらに転ぶかというのは各界からも注目を浴びています。私たちが存在しているアニメゲーム漫画業界もその業界の一つでしょう。アニメゲーム漫画産業はコンテンツ産業、いわゆる娯楽産業ですので自分の財布状況が苦しい時にコンテンツへお金を出すとなると結構厳しいモノがあります。
(画像は6月2日産経新聞朝刊からお借りしました)
消費税増税時の家系の年間負担増額がこちらの画像です。家族2人以上の勤労者世帯で年収300万円→3万3600円、500万円→4万2000円、700万円→5万400円、1000万円→6万3600円、1人暮らしの勤労者世帯は300万円→2万400円、500万円→2万6400円、8%から10%に税率がアップすることで年間の負担額がこれだけ倍増します。このことを分かりやすくする為に、どのくらいの影響をもたらすのかをアニメゲーム漫画業界を使って実際の数字を落とし込んでみました。
先ずはアニメ業界からです。アニメを購入する場合思い付くのはDVDやBlu-rayディスクの購入です。ユーザーが仮に5万人いたとして年間で4万2000円を使えた場合アニメ業界へもたらされる影響はおよそ20億円です。情報メディア白書2015アニメビデオソフト国内市場規模によりますと2013年の日本作品出荷金額は807億円(約1800万枚)となっていますので20億円はその内の2%に当たります。2%というと小さい様に聞こえますが、決して小さい数字ではありません。同書にあるアニメブルーレイディスク・DVD売上上位作品[2013年]両方の1位に輝くのは「エヴァンゲリオン新劇場版:Q EVANGE−LION:3.33 YOU CAN(NOT)REDO.」となっています。枚数にして約58万枚(Blu-ray40万、DVD18万)です(下記画像参照)。Amazon.co.jpベースで値段を調べるとBlu-ray2,523円、DVD2,080円、豪華特典版5,000円くらいなどのもありますので平均して4,000円としておきます。そうなると合計で約23億円です。
先ほど消費税増税されることにより20億円というお金がアニメ業界に回らなくなるとお伝えしましたが、もし増税されていた後に発売されていたらここまでの数は売れなかった可能性もあります。また、エヴァンゲリオンはトップ1ですので2位以下の作品はさらに数を減らしていたことも予想されます。となると、何が起きるかといえば制作費がぐっと下がる事態です。場合によっては失業と倒産の嵐です。制作会社の首が何とか繋がったとしても生活の問題があります。今現在ですら実家に住んだり、年収数百万でより安く生活費を切り詰めているのにこれ以上行ったらどうなってしまうのでしょうか。もし増税されてしまったとしたらクリエイター自身の生死に関わる問題が訪れていた可能性は大いにあります。
続いて漫画業界です。漫画は幅広い層に親しまれているのでユーザー100万人と仮定します。100万人が4万2000円と考えると影響力は420億円です。こちらも情報メディア白書2015を引用します。マンガ市場主要指標でみてみますと2013年の単行本+雑誌の販売金額は3,669億円となっています。市場全体でみると1割を大きく超えた影響を持っていることがお分かり頂けます。さらに、見ていきますと日本で一番売れている雑誌週刊少年ジャンプの発行部数は281万冊となっておりますが、合計すると約7億円でジャンプ発刊の危機が訪れていた可能性もあります。また大手出版社だけでなくマンガ単行本が受ける影響もあります。「マンガ単行本発行状況」を見てみると全体で約3000億円となっており増税されたことで1〜2割のマンガ単行本が消滅していたとも言えます。
最後はゲーム業界です。ゲームには幾つか種類があり、アーケード1540万人、スマフォ2672万人、オンライン1056万人、ビデオ(コンシューマー)ゲーム2530万人というユーザーがそれぞれ存在しています。同書のゲーム産業構造図を見ると、アーケード4,564億円、スマフォ5,597億円、オンライン1,310億円、コンシューマー4095億円となっております。数千万単位でユーザーがいる様なので200万人と仮定しました。200万人が4万2000円と換算すると影響は840億円です。比率でいうとアーケードは2割、スマフォ1割、オンライン5割、コンシューマー2割の減益を意味します。ただしスマフォ1割と書きましたが元締めが1割減となると下請け会社さんの得られる制作費は下がります。
8→10%アップという数字だけ見ると「ふーん」ですが、業界の状況に当てはめて行くともたらす影響の凄さがよりリアルにご理解頂けたと思います。毎年売上が1億円だとして営業利益率が5%だとしたら営業利益のトータルは年間500万円となりますが、売上1割減った場合、9000万円となります。リストラも何もしないでいると9,500万円のコストがかかっているのでマイナス500万円の赤字です。たった1割売上が下がっただけで多くの制作会社、開発会社は赤字に転落していた可能性が高いのです。
増税とアニメゲーム漫画
アニメゲーム漫画コンテンツが消費税を増税しても日常的に購入される生活必需品だとしたら問題ありません。不況でお財布の中が厳しくても、少し値段が高くても絶対に買われます。極端な話、水と食料、家くらい重要な物であれば売れ行きも売り方も変わってくるでしょう。業界それぞれでコンテンツの金額は変わってきますが、万円単位で年間の出費が増すとなると生活を切り詰めてコンテンツを購入するか、生活はそのままでコンテンツ購入を諦め無料に走るかの2択です。
2015年にアニメアニメが発表した「普段どの様にアニメを視聴しているのか?」というユーザーの今が分かる統計があります。全体回答数1478人複数回答可、1位テレビ番組録画78.8%(1165人)、2位無料配信サービス48.4%(716人)、3位テレビ放送で見る42.0%(621人)となっていました。理由については言及されていませんでしたが、トップ3の共通点としてお金を如何に掛けずに楽しめるかがトップ3の決め手になっている様に伺えます。そうなるとアニメゲーム漫画コンテンツは生活苦になってまで購入されることはないことを意味します。消費税は通行手形ですから誰しも特例などなく発生します。生活必需品から購入をしていけば当然お金に余裕がないと娯楽まで予算は回りにくくなる結論に落ち着きます。クリエイターさんは自分たちが作った物の売れ行きによりお給料も変わっていきます。
今回の選挙はクリエイターさん一人一人が正しく消費税増税延期を支持する、支持しないを見極める機会にして欲しいと思い書きました。アニメゲーム漫画業界のコンテンツを売る立場から考えると消費税増税延期はプラスになると今回結論付けました。ただ、本当にこの結論は正しいのかは分かりません。一つの考えに流されずご自身で消費税延期について一度考える機会にしてみてください。