ゲーム クリエイター向け 100年後の未来から今よりも未来に発売される架空のゲームをレビューする作品が面白い!

The video game with no name

Web上で小説を「書ける、読める、伝えられる」場所というコンセプトで立ち上げられたオンライン小説投稿サイト「カクヨム」。特定のジャンルに偏ることのない多様な小説が評価される環境づくりを掲げ、許諾の取れた既存の作品については二次創作を投稿可能にするなど、クリエイターによる幅広い文章表現を応援するサービスとして注目が集まっています。当記事筆者である山崎もいわゆる「読み専」として利用させて頂いております。

私はカクヨムでは専らSFのジャンルを読んでいるのですが、ゴールデンウィーク中に話題になった作品が面白かったのでラクジョブでも取り上げたいと思います。2016年5月6日現在、SFランキング1位の作品『The video game with no name』です。この作品のあらすじからしてワクワクものです。

『The video game with no name』
https://kakuyomu.jp/works/1177354054880928816

(引用開始)

2115年4月!レトロゲームレビューサイト「The video game with no name」開設しました!このサイトでは筆者である私の好きな数々のレトロゲーム、特に歴史的に低評価を受けたゲームたちを分かりやすく解説していきたいと思います!ゲームなら何でも好き!みなさん仲良くしてくださいね!

(引用終わり)

未来のビデオゲームに関する小説かとおもいきや、その内容はなんとゲームレビュー。しかしジャンルがSFたる所以がこのユニークな設定にありました。2115年というはるか未来のゲームレビューサイトのライターが、現代から見れば未来に発売される2115年時点でのレトロゲームを冗談めかしてレビューするというもの。しかも、低評価のゲーム、いわゆる「クソゲー」と評価されてしまうことになったゲームを切るという今までになかった斬新な発想で、すでに5タイトルをレビューしています。

249おそろしく未来志向

フィクション・レビューともいうべき今作の1話、「【第1回】キミにキュン!人工ヒメゴコロ」にはがっつりハートをつかまれました。ゲームレビューという内容になっているので、「キミにキュン!人工ヒメゴコロ」というタイトルのゲームをレビューするのですが、そんなソフトは実在しません。先ほど書いた通り、2115年時点での低評価レトロゲームをレビューするという設定です。このゲームの発売日は2022年8月31日。プラットフォームは中国においてクラウドファンディングで作られた「含羞草」というVRゲーム機。そしてジャンルはエロゲー。もうこれだけでかなり面白いですよね。冒頭でははるか昔の出来事として、「Oculus Rift」や「PlaystationVR」の発売やVRの普及などが言及されています。内容も皮肉たっぷり。VRエロゲーの草分け的存在として発売されるも、「美麗すぎる映像にVR酔いを訴える人が続出」し、時計仕掛けのオレンジにでてくる拷問になぞらえるジョークが発生していたり、ブレ補正MODなどが有志によって配布されていたり、VR機器である「含羞草」がオークションで高値で取引されたりと、現在のレトロゲーム市場に対する眼差し+現代の技術という視点を取り入れることによって、レトロゲーム好きならば「これはあり得る」というような内容になっています。

xFuture_Citys_SS.jpg.pagespeed.ic.uAHfGNqHrM皮肉かエンターテイメントか

この作品はエンターテイメントとしてはもちろん、作者による今のゲーム業界の行く末を皮肉る要素が盛りだくさんです。第1回では架空のエロゲーがVRを搭載する以前からVRと酔いやすさは問題になっていたという世界観を描いています。低品質なFPS作品がVRを導入し、「良いやすさ」で低評価の烙印を押されてしまっていたり、その影響でVRゲーム機自体がニッチなものになってしまっていることなどは、ありえない未来ではありません。第3回の「【第3回】密友」では人工知能と人間の会話についての考察ともいうべき内容ですし、第4回の「【第4回】フォークロア・オブ・ノスタルジア」は高齢化社会における介護医療事業への集中投資、そこから生まれた「リハビリテーションソフト」の影響でソーシャルゲームが衰退していくという内容。なんだか他人事ではない、ちょっとしたリアル感が面白いのと同時に、作者のゲームや周辺知識の深さ、洞察力や分析能力の高さを感じずにはいられません。高齢社会になったら、確かに安易にゲーム業界も「では高齢者向けのゲーム開発しましょう」というふうになりそうですし、若者が選挙に出ない状況が続くのであれば高齢者介護事業などにも国の予算は割かれ、もしかしたら一つのゲームジャンルの終焉につながるようなことになってしまうかもしれません。

gahag-0069715258-1現在の最先端は100年後のレトロという視点

この作品で扱われているゲームの発売日を見ると、一番古いので「キミにキュン!人工ヒメゴコロ」の2022年、一番新しいもので第2回のビデオゲームを遊ぶための人工知能ロボット「Acacia」の2073年です。2115年からすると、Acaciaでさえ42年前です。2016年から42年前といえば1974年。まだファミコンすら登場していないはるか昔です!日本で初めて発売された家庭用ゲーム機が発売されたのがエポック社の「テレビテニス」と言われており、これが1975年のこと。当然フィクションの作品ですから現実と混同することなかれ…とはいうものの、そうとも言ってられないような未来予測っぷり。VRに懐疑的な姿勢を取っている人であったり、ムーアの法則を信じている人であれば、このような人工知能の到来や技術の発展予想に大いに共感できるはず。こういう未来を想像することは楽しいですし、同時に現在自分がやっていることの欠点をあぶり出す思考法にも繋がるでしょう。日本科学未来館の「未来逆算思考」などの展示品の登場や、今回のカクヨムに投稿された作品などを見るにつけ、未来のとある地点から現在を分析することの重要性は、ますます増してくるのではないかと思います。未来思考を養うのにも役に立つ作品だと思いますので、これからも2115年という途方もない未来のクソゲーハンターによる面白レビューを期待しましょう!

記事を読んでいただきありがとうございました!

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