アニメゲーム漫画クリエイター向け 『月と六ペンス』 おすすめ図書案内

Online intruder geek guy hacking codesストイックと狂気は紙一重?

一般的に「ストイック」という言葉は良い意味で使われます。部活動や勉強に対して熱心な人や、なにか物事に対して集中できる人に対して、「君はストイックだね~」という具合で使っていると思います。それはただ熱心なだけでなく、部活動や勉強などしている時、他のことに気を取られたり、欲望や邪念に対して屈しないという精神力の強さも同時に評価したりしますよね。

ストイックという言葉の意味をWeblioで調べてみると、実用日本語表現辞典からの引用がありました。

(引用開始)

禁欲的な態度、自らを厳格に律する姿勢、怠惰や享楽へ逸脱することなく目標へと邁進する求道的な在り方、といった意味で用いられる表現。

ストイックの語は、元々は古代ギリシア哲学におけるストア派と呼ばれる学派の思想(ストイシズム)を指す形容詞である。ストア派の思想は、大雑把に言ってしまえば、自律・自制によって道徳的・倫理的な幸福を求めようとする考え方であるといえる。

古代ギリシア哲学では、幸福を「快」として捉え享楽を肯定する学派(エピクロス派、エピキュロス派)も登場した。今日では快楽主義を指す語として用いられ、ストア派とは対照的な考え方と位置づけられることが多い。

(引用終わり)

ところで、もしもやりたいことをひたすらにやっている、しかもやりたいことだけをやっている人がいたとしましょう。ご飯もろくに食べず、風呂にも入らない。ただモクモクと自分のやりたいことだけをやる人です。一見ストイックに見えるかもしれませんが、他人から見たら不気味でしかありません。それに、本人の欲求のままに何かに取り組み続けるということは、禁欲的と言えるのでしょうか。

imagesサマセット・モーム 月と六ペンス

(画像はamazonより)

イギリスの小説家サマセット・モームによる『月と六ペンス』は、「やりたいことをやるとはどういうことなのか」ということについて考えさせてくれる作品だと思います。

主人公で作家の「私」はストリックランド夫人のパーティに招かれたことからチャールズ・ストリックランドという男に出会います。しかしある日をさかいにチャールズ・ストリックランドは家族を残して疾走。夫人の依頼でストリックランドを追った「私」は、彼がいるというパリへ向かいます。女と駆け落ちしていたと思われていたストリックランドに会ってみると女の影はなく、貧しい暮らしをしていました。

(引用開始)

「女ってのは精神が貧困だ。愛、何かというと、愛だ。男がさる理由は心変わりしかない、と決めつける。きみは、私を女のためにこんなことをするような馬鹿だと思っているのか?」
「奥様を捨てたのは、女性が原因ではないんですか?」
「冗談じゃない」
「名誉にかけて?」
 どうしてそんな質問をしてしまったのか、自分でもわからない。青臭いにも程がある。
「名誉にかけて」
「じゃあ、どうして奥様を捨てたのですか」
「絵を描くためにだ」
 わたしは、目を丸くして相手の顔を見た。意味がわからなかったのだ。この男は頭がおかしいのだろうかと思った。

(引用終了)

絵を描くために今までのすべてを捨て、ストリックランドは画家になったのです。この行動を記事をお読みになっているあなたはどう思いますか?アニメーターやゲームクリエイターやシナリオライターになるために、すべてを捨てることができるでしょうか。

 

French painter and woodcut artist, Paul Gauguin. --- Image by © Bettmann/CORBIS

モデルになったのはゴーギャン

ストリックランドのモデルになったのはポール・ゴーギャンです。1848年、二月革命の年にパリで生を受けました。成長したゴーギャンはパリ証券取引所で株式仲買人として仕事を始め、その後11年間は実業家として成功し、さらに絵画取引でも同等の収入を得るなどできるビジネスマンでした。この絵画取引を始めた1873年頃から余暇を使って絵を書くようになりました。彼が住んでいた地域には印象派の画家が集まるカフェなどが多く、交流を深めたり新人の画家の作品を購入したりしていました。パリの株式市場が暴落した1882年を期に、画家になることを本業とすることを考えるようになり、セザンヌやピサロなどの画家たちとを絵を描いて過ごすということもあったといいます。この辺りで画家として生きていきたいという決心は固まっていたらしく、1885年には家族を残してパリへ向かい、画家としての生活をはじめます。

Wait deadlines「やりたいこと」と「生活」

相違点は数あれど、モームの描くストリックランドと共通点があります。ストリックランドは幸せな環境から一気に画家になることを決めていますが、ゴーギャンはビジネスマンとして成功している人ですから、きっと色々考えたうえでの行動だったのでしょう。今はイラストレーターなど他の商業と結びつくような絵を描く仕事が昔と比べてありますから、実力次第にはなりますがどんな絵でも構わないという人であれば絵を描くだけで仕事ができることが簡単になったとは言えるでしょう。アルバイトと両立しながら自分の好きなことを磨いていくこともできます。生活していくのに厳しいのは新人動画マンなどのアニメーターでしょうか。自分がやりたいことが社会の役に立たなければ、お金は貰えません。役に立つものであるという評価が下る前から好きなことをやり続けようとすると、結果、お金や住環境などのこだわりを捨てなければならないでしょう。しかし、それを実践する本人が納得すれば済む話でもあります。ストリックランドから学べることは、社会通念上良くないとか、貧しいから不幸だということではなく、「やりたいことをやるために、自分が選んだ選択肢を受け入れて、堂々とした姿勢で取り組む」ことだと思います。自分の進む道を疑ってしまうと辛いです。ぜひ堂々とやりたいことにチャレンジしてください!

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