ゲーム実況とゲーム業界 ゲームプレイで人が見えると、人がメインコンテンツになる?

Composite image of businessman shooting bow and arrow腕前が求められた時代

「ゲーム実況」という言葉は、ゲーム・アニメ・漫画業界に興味関心のある方々なら一度は聞いたことがあるかと思います。芸能人ではない一般の方々が、動画投稿サイトやストリーミング再生サービスなどの映像メディアサービスを利用して、ゲームをしている状況を、視聴者に届けるというものです。

人がゲームをプレイしている様子がコンテンツとして価値のあるものと認識され始めたのは、16連射でお馴染みの高橋名人や、ライバルである毛利名人などの「凄腕プレーヤー」によるスーパープレーが源流ではないでしょうか。彼らはスターフォースやスターソルジャーなどのシューティングゲームのセールスに大きく貢献したと言われています。「スーパーマリオクラブ」や「スーパーマリオスタジアム」など、90年代前半に放送されたテレビ番組などでも、ゲームの大会企画などが放送され、基本的にはゲームに対する熟練した腕前が求められていました。

スクリーンショット 2016-04-01 11.53.26ゲームセンターCXの登場

それを一変させたのは「ゲームセンターCX」でしょう。お笑いコンビ「よゐこ」の有野さんが扮する「有野課長」は、決してゲームの腕前が上手というわけではありません。ゲームをプレイし、内容にツッコミを入れたり、やられた時にジョークを呟いたりするという彼のプレイスタイルは、今までゲームをやったことの無い人でも思わず見てしまう内容でした。海外でもFacebookなどでファンサイトができるほどです。彼のプレイスタイルに影響を受けたか定かではありませんが、P2Pのストリーミングサービスなどでチラホラと有野課長のプレイスタイルを模したユーザーが現れ、それらがニコニコ動画に転載され始めるなどして、ゲーム実況の流行が始まりました。
今ではニコニコ動画のタグ別ランキングでは、必ずと言っていいほど実況プレイ動画が上位にランクインしています。それまで法律に抵触していた実況プレイ動画ですが、ゲーム開発会社から許可が下りたタイトルに関しては問題なく投稿や配信ができるようになるなど、ゲーム実況を取り巻く環境は注目度に合わせて変化してきました。

Woman making loud announcementゲーム実況で重要なものは「実況」

「ゲーム実況」というものをゲーム業界との関わり合いの中で見てみると、メッセンジャー的役割を見いだすことができるでしょう。つまり、実況者は「このゲームがいかに面白いのか」ということを、彼らのカリスマ性やタレント性との相乗効果で広めてくれる可能性があります。しかし、実際に実況プレイ動画を見ている人の多くは、実際に自分でやるに至らないケースが多いようです。では、動画を見ている人は何を見ているのかという視点に立つと見えてくるものがあります。You Tubeにしろ、ニコニコ動画にしろ、実況者の動画のコメントを見ると、実況者個人に対して関心があると思しきコメントが目立ちます。ゲーム実況で人気を博しているYou Tuberの方々の中には、ゲーム実況という文脈からではなく、ヒューマンビートボックスや商品紹介という別のエンターテイメントを動画でアップロードし、そこで人気を博していた方がゲーム実況をし始め、そちらでも人気が出たという方もいらっしゃいます。
徳岡正肇編著「ゲームの今 ゲーム業界を見通す18のキーワード」の中で、ライターの稲葉ほたてさんはこう述べています。

(引用開始)
つまり、ゲーム実況はゲームというコンテンツの楽しみ方の一形態として以前に、そもそもインターネットに伝統的に存在する「実況」文化の一ジャンルとして存在しているのだ。
(引用終わり)

そして、実況する人自身に価値が見出されることも忘れてはなりません。ゲーム業界側にとって、ゲーム実況とは、「実況者が脚光を浴び、人々の関心がそこでストップしてしまう」というリスクがあるのです。

見るだけでやらない視聴者

スクリーンショット 2016-04-01 11.07.09
https://www.gamespark.jp/article/2016/01/21/63231.html
海外でもゲームの実況プレイとゲーム業界との関係という話題は出ています。特にYou Tubeなどで活躍されている方は、パートナーズシップ制度などで動画再生数ごとに金銭が発生する仕組みで巨額の報酬を得ている人気You Tuberもいます。 参考記事を見てみますと、実況プレイを見て満足する人の存在は確かに存在し、実況プレイ内容によっては商業的損失を被っている可能性があるという声もあると書かれています。インディーゲームなどプロモーションにそれほどお金を掛けられない場合は一概に損失があるとは言えないでしょうが、「ゲーム実況プレイ」というコンテンツのメインは「実況者」であるため、実況されることを開発段階の視野に入れたとしても、セールスに直接影響があるとは言い切れません。

Strong Superhero Businessman Transformingゲームをプレイする人が見えるということは

スーパープレーとゲーム実況の共通点は、どちらもゲームをプレイしている人間にスポットライトが当たる機会があるということです。高橋名人や格闘ゲーム界隈で有名な梅原さんなど、ゲームというものと分裂して、その人自身に付加価値が生まれます。この人に生まれた付加価値をセールスに活かせるか活かせないかというところが重要だと考えます。
ハドソンの広報であった高橋名人は自社ソフトのセールスという視点をもってゲームをプレイしたり、ゲーム上でパフォーマンスをされたりしていました。それと比較するとゲーム実況者は、今プレイしているゲームのセールスという視点を持たずにゲームをプレイし、その様子を動画で配信しています。視聴者とより近い目線でゲームを捉えているため、その動画を観終わるとまるで自分がゲームをやったかのような満足感を得られ、ゲームを買いたがらない心理が生まれてくることは想像に難くありません。さらにはポジティブな面もネガティブな面も歯に衣着せずコメントする方々もいらっしゃるでしょうから、最悪の場合欠点だけが視聴者に印象付けられる可能性もあるわけです。

人気ユーザーによって作品の名前や自社ブランドが広く認知されることも一つメリットではありますが、それと同時に上記のようなリスクもあります。実況を視野に入れずとも、面白いゲームは勝手に「実況」されるでしょう。「スプラトゥーン」や「スーパーマリオメーカー」などの近年のヒット作品は、実況プレイ動画の数も多いですが、この人気は彼らの表現方法にたまたま合致したという一側面でしかありません。例え実況というジャンルがなかったとしてもヒットしていたでしょう。むしろ実況という分野にゲームの内容までも歩み寄ろうとすると、実況動画としての面白さを阻害する可能性もあるでしょう。一定の距離感を保った関係性が、今後求められるゲーム業界側の姿勢だと考えられます。

toiawase-1024x226-1