KADOKAWA編集長から学ぶシナリオライターとイラストレーターの仕事術と転職のポイント

  1. 61EzFON7uJL『面白ければなんでもあり』

KADOKAWA電撃文庫と言えば、アニメ化されたラノベが何より多いラノベ業界の金字塔です。『SAO』の略称で親しまれる『ソード・アート・オンライン』は日本だけでなく海外でも人気を博し、『とある』シリーズ、『俺妹』シリーズ、『シャナ』など、大人気のコンテンツをずっと生み出し続けています。そんな電撃文庫編集部の編集長を務める三木一馬さんが先日本を出版しました。それが『面白ければなんでもあり 発行累計6000万部——とある編集の仕事目録(ライフワーク)』です。
本書はタイトルの吸引力に加え、『まどマギ』の新房監督、『あの花』の長井監督、『SAO』の伊藤監督、その他名の知れたラノベ作家が推薦文を書いています。更にその下にある「面白い人生と原稿の作り方」という煽り文。こりゃもう買うしかない!という訳で、先日ちょうど読み終わりました。今回はこの本の内容をネタバレしない程度に、ちょっと特殊なクリエイティブ業界で働く皆さんのための仕事術のエッセンスを伝授いたします。(正直とても良い本なので、直接読むことを心からお勧めします)

Fotolia_37642080_Subscription_Monthly_Mシナリオライターはもちろん、イラストレーターにも役に立つ!

『面白ければなんでもあり』は、三木さんの編集者としての心得や作家との打合せ風景を交えながら作品作りの思いを綴ったものです。「良い文章とは何か?」「魅力的なキャラクター作りとは?」といった、シナリオライターや作家さんに役立つ知識も豊富ですが、ラノベには欠かせないイラストの選び方についてもかなり詳しく書いてあります。イラストレーターは編集者自身が探してくることが殆どですが、その方法はかなり泥臭いもの。イラストサイトを300,400と眺め、これだ!と思うイラストレーターを選出すると言います。多い時は1日1000を越えるサイトを見ていたという記述も・・・。実際1000以上もイラストサイトを見ていれば「上手い!」というイラストレーターは数多く見つかりそうなものですが、三木さんが目を付けるのは「上手い」というだけのイラストレーターではありません。その人が10描くイラストの中で、全てが100点なのではなく1つでも120点がないか?この人しか描けない武器はないか?という視点を何よりも大切にしていると言います。いとうのいぢさん、ブリキさん、abecさん、はいむらきよたかさんなど有名タイトルのイラストを手がけている方も、落書きや個人サイトのイラストをくまなく見た上で「この強みは使える!」「作品に合わせられる!」と選定されています。それぞれの選考理由やイラストの変遷なども本には書かれているので、是非参照してみてください。

Funny and crazy man using a computer作品に愛があるか?

これは当然の話ではありますが、例えば編集者という仕事は、作家ではないために作品を直接的に作り出す事はしません。しかし作品に関わる以上は作家よりもその作品に詳しい必要がある。それが三木さんのポリシーです。例えば『SAO』に出てくるほんの3行ほどのセリフの中に緻密な世界観が感じられたときは「この世界観には元ネタがありますか?」と作家に聞き、その元ネタも読破したというエピソードがでてきます。しかしその資料がSAO16巻分ほどの量で、次の打合せまでに読むにはあまりにも時間が足りず・・・それでも何とか読破するために水風呂に入るなどして眠気を覚まし、少ない時間を作って何とか読んだという壮絶なエピソードもありました。

作品に関わる以上は作品に惚れ込めというのは確かに鉄板です。しかし細かい設定や世界観については誰しもがおろそかにしてしまうものではないでしょうか?神は細部に宿るとはよく言いますが、誰もこんなところ気にしないだろう?!というような細かい所に頼るからこそ、良い作品は生まれます。しかも三木さんの場合は納期まで徹底して間に合わせています。これはどんなクリエイターにも教訓となるのではないでしょうか。

Business man with social media connection background「面白くない」なら良いものは生まれない

この本の最後に「他の編集者と何か違ったことをしているという感覚はないが、なにより面白い、楽しいということを大事にしたいと思って仕事をしている」といったような一文があります。とてもシンプルですが、核心をついた一言です。手塚治虫があんなにハードワークで何本も連載を掛け持ちしていたのも、時に恐ろしいスケジュールで宮崎駿が作品を生み出すのも、そこには「面白い」「楽しい」というクリエイターとしての根幹があります。もちろん「大変」ですし「辛い」という面もありますが、それでも辞められない。これはクリエイターの業とも言えますし、必須条件でもあると言えます。

今、沢山の作品が世の中に生まれています。アニメの製作本数も年々上がっていて、業界で働く人には忙しい反面大変な時期でもあるでしょう。しかし皆さんが作っている作品が世の中に長く残るかどうかは、「楽しんでいるかどうか」というシンプルで難しい問題があります。私達が求人広告を運営しているのも、もし皆さんが「楽しいより辛いの方が多い」と思ってしまったときに、新たな「楽しい」を見つけてもらいたいからです。転職が必ずしも良いとも悪いとも言えませんが、クリエイティブな仕事についた以上は「楽しい」人生であって欲しいと願っています。

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