本日(2016年3月24日)の日経新聞朝刊の文化面に、以下の題の記事が掲載されていました。
まだまだあるぞ、名作漫画 「面白い作品、もっと知ってほしい!」マンガ大賞を設立
今回は、このマンガ大賞設立の記事とアニメゲーム漫画業界の就職転職を絡めた「好き」についての話です。
「好きを仕事に」は正しいのか
よく「自分の好きなことを仕事にしなさい」という言葉を聞きます。実際、アニメゲーム漫画業界専門の求人サイト「ラクジョブ」にも、「アニメゲーム漫画が好きだから仕事にしたい」という思いを持って就職転職を希望される方が多くいます。確かに嫌いなことと好きなこと、どちらを仕事にしたいかと問われて嫌いな方を選ぶ方は少数だと思いますが、本当に好きなことを仕事にすることは良いことなのでしょうか。
アニメゲーム漫画業界にも、「好き」を理由に就職転職を果たしながらも、数年後に業界を去るような方も少なくありません。好きだという思いで就職転職して、好きなことを仕事にできた、なのにどうして好きな仕事を辞めてしまうのでしょうか。
一番の理由は、アニメゲーム漫画が好きかどうかとアニメゲーム漫画を作る仕事が好きかどうかは別物だということです。アニメゲーム漫画業界で働いたことのない人にとっては、いくらアニメゲーム漫画が好きでも、アニメゲーム漫画を実際に仕事として作った経験は一度もありません。それにもかかわらず、アニメゲーム漫画を楽しむこととアニメゲーム漫画を作ることをごちゃまぜにしてしまうと、いざ働き始めてからのギャップが大きくなり、離職の確率も高くなっていしまいます。
好きだから作られたマンガ大賞
「好きだから」という気持ちは、何もそれを仕事にしなければならないということには繋がりません。好きだから楽しむ、好きだから買う、好きだから、自分で勝手に作ってみる、好きだから自分で会社を立ち上げる、どれも選択肢として自然とあっていいはずです。そして、「マンガ大賞」も「好きだから」でスタートしたプロジェクトでした。
2008年からスタートしたマンガ大賞は、ニッポン放送アナウンサーの吉田尚記氏の思いつきが始まりでした。「小説には読者に寄り添った本屋大賞があるのに、マンガにはマンガ好きに寄り添った賞がない!」という思いから、周りの書店員やデザイナー、イベント屋8人を集めて実行委員としました。マンガ大賞では、「岳」「ちはやふる」「かくかくしかじか」「テルマエ・ロマエ」などの作品が大賞として選出され、マンガ好きを唸らせるような良作が世に知られる機会を増やすことに成功しています。
全てボランティアでもできますか?
驚くことに、このマンガ大賞は全てがボランティアで運営されています。サイトのデザインから授賞式の企画・司会までが全てノーギャラ。選考のための漫画も全て自費で購入されています。その上、関係者にはそれぞれの本業のもちろんあります。しかし、それでも「好きだからつらいと思ったことは一度のない」と言います。ビジネスとしては全く成立していませんが、それでも続いているのはまさしくマンガ愛ゆえと言えるのではないでしょうか。
「アニメゲーム漫画を仕事にしたい」という志望動機はラクジョブでもよく目にします。しかし、では「なぜそれは仕事でなければならないのか」と問われると堂々と答えられる人は少ないのではないでしょうか。「食っていくためには仕事しないといけないから」は一つ想定される答えだと思いますが、では「仕事にならなければアニメゲーム漫画をつくることはしたくない」のでしょうか。それは本当にアニメゲーム漫画を作ることが好きだと言えるのでしょうか。
「好き」をエネルギーに
アニメゲーム漫画業界で働き続けることができるのは、アニメゲーム漫画を作ることが好きな人だけです。制作の質が高いことで有名なイラスト制作会社さんにお話を伺ったところ、「仕事としてクライアントからオーダーのあったイラストを描きつつ、休み時間には息抜きに自分の描きたいイラストを描いてしまう」そんな人たちばかりが集まっているそうです。もちろん自分の時間で自分の絵を描いている最中にお金は発生しません。仕事でなくても描いてしまう人が、絵を描くことを仕事にもできてしまう、倒錯しているようですが、現実に仕事を続けられる人はそういう人です。
「好き」であることは全く問題ないです。しかし、「何が好きか」を見誤ってしまうと、自分の人生の貴重な時間を間違った方向に使ってしまう可能性が高くなってしまいます。ついつい忘れがちですが、「アニメゲーム漫画を買う」という行為も買わない人から見れば、相当にすごいエネルギーのいる行為なんです。でもそれが自然とできてしまう、それが「好き」が持っている本当のエネルギーです。アニメゲーム漫画業界の求人サイトラクジョブとしては、アニメゲーム漫画業界で働く人が一人でも増えてほしいと願っていますが、「好きをエネルギーにして仕事できる人」がさらに増えればと思い、この記事を書かせていただきました。ぜひ参考にしてご自身を「好き」で突き動かしてください。