イラストレーターは漫画家になれるのか?絵を描く人の「将来」を考える

eshiboshu月刊スピリッツの作画担当募集

先日、こんな告知がTwitterに出ていました。漫画絵師の募集です。募集しているのは、『絶望に効くクスリ』『ゼブラーマン』で知られる山田玲司先生(ラクジョブの社長がファンです)。紙面だけで無くTwitter上でもメジャー月刊誌の作家募集をするようになったのか・・・と、求人ビジネスに関わると者として興味深かったのですが、じっさい漫画家としてデビューしても作画に特化する作家さんも大勢います。有名イラストレーターが漫画作画家としてデビューすることも少なくないでしょう。学生の中には「イラストレーターか漫画家、またはアニメーターになりたい」という人もいます。しかし「漫画家」と「イラストレーター」、そして「アニメーター」は全く違いますし、全てのイラストレーターが漫画家になれるわけでもありません。「イラスト」「漫画」「アニメーター」の絵の違いとは何なのでしょうか?

manga knstler zeichnetイラストレーター志望者は、漫画家志望の4倍

ラクジョブに登録している方々の志望職種を調べてみると、2DCGデザイナー>イラストレーター>アニメーター>漫画家 の順で希望人数が並びます。2DCGデザイナーというのは、昨今「イラストレーター」と同義に捉えられることもあり一概には言えないのですが、少なくともイラストレーター志望者は漫画家志望者の4倍ほどになっています。このように差が出る理由の1つは、それぞれの職種に必要とされるスキルでしょう。

2DCGデザイナーは、仕事の特性上「絵柄を変えられること」が最も必要となります。1種類の絵しか描けないと、複数のゲームに対応できません。老若男女からモンスターまで自由に描けること、小物や背景も質感を重視して描けること、時には全く目立たないようなアイテムでも大量に描くことを必要とされます。

イラストレーターが必要になったのはここ5年前後、ソーシャルゲームが人気になってからですが、イラストレーターに必要なのは「発注側の意図を汲んだ世界観を提供出来るか」であり「一目で手に入れたいと思えるようなビジュアルを描けるか」です。修正対応力、コミュニケーション能力、制作速度が問われます。

shirobako次点のアニメーターは、去年人気を博した「SHIROBAKO」等でも描写がありましたが、キャラクターデザインをどれだけ正確に描き起こせるかはもちろん、原画と原画の間の動きを想像して埋める必要があります。職場環境的な問題もあることから、イラストレーターやデザイナーよりは希望する方が少ないようです。

そして漫画家。漫画家は一般に「ストーリーも考えていて絵も全部描いている人」と思われがちですが、実際は担当編集とストーリーを練ることが通常の流れです。編集から「こんな話を描いてください」と言われてアレンジを加える場合もあるでしょう。今回の募集にもある「ネーム(物語+コマ割等の設計図)」の完成度が最も問われます。

作画に特化した漫画家は、『DEATH NOTE』でもよく知られる小畑健先生、『ワンパンマン』の村田雄介先生などが特に有名です。彼らはストーリーの構成もできる漫画家としてデビューしていますし、連載も持っていました。このように基本的に「漫画家としてデビューしてから作画担当になる」方が、雑誌紙面においては一般的な流れです。

Artist drawing something on graphic tablet at the home office著名なイラストレーターでも漫画家向きとは限らない

イラストレーターが漫画家の作画担当としてピックアップされることは、最近になって増えてきました。イラストクオリティーや著名度を考えるとその方が効率的に思えますが、そう多くのイラストレーターが漫画作画担当としてデビューすることはありません。「イラストレーター側が特にやりたくないのでは?」「作画に時間がかかり過ぎるからでは?」等と推測される場合もありますが、どちらかというと出版社や漫画原作者がそれには3つの理由があります。

①イラストレーターの世界観が漫画原作者の世界観と違う
イラストレーターの世界観が確立されていることはイラストレーターにとって非常に重要なことですが、人の数だけ世界観はありますのでそれが漫画原作者の世界観と完璧に最初から合致することは基本的にありえません。漫画原作者が言葉で説明できる以上に、彼の表さんとしている世界を吸収して出来る限り100%アウトプットする、という能力が「作画担当」として必要になります。場合によってはその作品の世界観が作画担当のものになってしまうと、当初予定されていたものとは違ってきてしまいます。

Design Icon Concept Flat Style②描けるものが限られている
例えば「女の子の絵が得意なイラストレーター」「メカが得意なイラストレーター」と言えば何人も見つかるでしょう。しかし漫画というのは様々なテーマを含んでおり、1ページにある複数のコマの中でキャラクターなどが縦横無尽に駆け回ります。そうすると、コマを1枚絵として見せることよりも、ストーリーを淀みなく追えるかどうか、キャラクターの喜怒哀楽、場合によってはぐちゃぐちゃの泣き顔から細かな表情の変化までが表せるか?という、イラスト制作とは違った描写力が期待されます。この時点で、幅広い対応能力が問われます。

③必ずしも「綺麗な絵」が正解ではない
漫画というのは絵やコマ割、セリフなどが全て合わさって作られるジャンルの作品です。結果として、時によっては「綺麗なだけ」の毒が無い作画は敬遠されることもあります。例えば漫☆画太郎はイラストレーター的美麗グラフィックを描く人では・・・無いですが、あの絵柄で無ければ面白くなかったであろう作品は数多くあります。この問題は①とも通じますが、原作者の作品や原作者自身に深く入り込まなければ、どんなに美麗な絵が描けたとしても「不適合」となってしまうのです。

絵を描く人は何を目指せば良いのか?

「絵を描く」ということには様々な側面があります。今こうして2つの職種を取り上げただけでも、仕事の流れから必要とされるスキルまで、時には真反対と言うほど違う事がわかって頂けるかと思います。もしあなたが絵を描くような仕事を目指しているのであれば、それぞれの特性や必要とされるスキルを参考にした上で、キャリア形成を考えて頂ければと思います。

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