「盗まないAI」のためにアニメ会社ができること――AIを使用したアニメ業界のリアルとは(前編)

いよいよ年末。2024年もアニメ・ゲーム・マンガ業界では様々な話題が飛び交いました。
その中でも特に熱を帯びたのが、クリエイティブにおける生成AI問題です。

生成AIによる盗作問題、無断学習によるクリエイターの権利迫害問題は未だ回答が出ている状態ではありませんが、現在アニメ業界では深刻な人材不足の関係から「盗まない」形でAIを用いる方法が模索されています。

今回はそんな「盗まないAI」を用いたアニメ制作の現場のリアルを、実際にAIを用いているアニメ会社スタッフの方や経営陣の方に伺いました。前後編でお届けするレポートを元に、今後のAIとの付き合い方を考えるきっかけになれば嬉しく思います。

目次

生成AIに対する現場アニメーター達の反応

本日お話を伺うために訪れたのは、12月14〜15日に東京ビックサイトで開催されていた「ビジネスチャンスEXPO」。ここに出展している「K&Kデザイン」社は、生成AIの利用にいち早く取り組み始めた名古屋のアニメ会社です。
当日は生成AIを使ったアニメ制作のプレゼンテーション等をその場で行っていました。
ブースを訪れた映像制作会社や現役アニメーターの反応を見てみると…

「AIに指定するだけで、色々な構図を提案してくれるのは有り難い。地獄が軽減しますね、これは」(アニメーター)

「監督から『こういう資料写真がほしい』みたいなことを言われた時に検索するのはかなり時間のロスだった。AIがあることでイメージを一発で出せるのは、設定制作的にもすごい楽になる感じがある」(設定制作)

「これは違う、と思ったらすぐに別の案も出せる。イメージボードを作る時など、制作過程の事故率が減るからスムーズになりそう」(ディレクター)

若い人からベテランまでかなり好反応で、ところどころ歓声も上がる様子。来年以降のアニメ制作で具体的に相談したい、という商談も取材中に持ちかけられていました。
この反応を見ると、ネット上の生成AIに対する評判とはかなり印象が違います。
なぜK&KデザインのAIは業界関係者にも好意的に受け取られるのでしょうか?

「盗まないAI」とは何か?

「AIには当社の過去素材を読み込ませており、著作権を侵害しない形でAIを用いています」と語るのはK&Kデザインの川上博取締役。

ネット上に落ちている誰かの絵画ではなく、社内のクリエイター等の絵柄をAIに読み込ませ、謂わばクリエイター専用にカスタマイズした生成AIが使われているのです。確かにこの方法だと「盗む」というより「活かす」ためのAI仕様になります。

現在は背景ラフやちょっとした動画部分、一枚絵の一部など、時間を取られる制作パートにAIを用いていますが、最終的には1本丸々AIを使ったアニメーションの制作をめざしているとのこと。

…しかしそうなるとどうしても気になるのは「クリエイターの意義」です。ずばりその部分を川上取締役に切り込んで聞いてみました。

生成AIによるクリエイティブは
「手描きならではの味」を殺す?
―― 生成AIはコストカットに繋がりますが、制作された作品は人間味が削ぎ落とされ単調になるという意見もあります。
今後、アニメにおける手描きならではのこだわりは死んでしまうのでしょうか?

川上さん(以下川)「私達としては、AIはあくまで補助という考え方は常に持っています。アニメ作品は、全体的な流れの中で“ここぞ”という動きを魅力的に見せたい箇所が複数発生します。それはAIより人の手でないと魅力的に描けません。」

―― 確かに「ここは作画がすごい」「キャラクターの感情が伝わる」というシーンは職人仕事になっています。

川「しかし今のアニメ業界は人も時間も足りず、“ここぞ”のシーンに力を割くことができない現状があります。
原画、動画、仕上げ…など、それぞれのフェーズで人の手が絶対に必要となるパートは違いますが、「ここは人間でなくてもできるだろう」という部分をAIに任せることで“ここぞ”のシーンの制作に集中してもらう、という狙いがあります。」

――人の手を使う部分に関して取捨選択を行うということですね

川「例えばTP(トレスペイント)修正という、仕上げまで終わった後の素材を手作業で直す大変な作業があります。
我々の生成AIアニメについてTV等で特集があると、アニメ制作会社からすぐに問い合わせが来るのが正に「TP修正はAIでできるか」というご相談ですね。
TP修正は地道な作業でクリエイティブとは違う部分です。人の手を使うと数日、というものでもAIを用いれば3時間で終わることもあります。」
「好きなだけでは辛い」業界を救うために

―― こうして話を伺ってみると、生成AIが「クリエイターから仕事を奪うもの」ではなく「クリエイターが本分に集中できるためにサポートするもの」である、という印象に変わってきます。

川「自分も元々漫画家を目指していて、絵を描く人間でした。だからこそわかるのは『この業界は、好きなだけでは辛い』ということです。給与もすぐには上がりにくい、予算を増やしてほしいと訴えたところで簡単に上がることは無い。残業も当たり前で健康は蝕まれていくし、精神的にも追い込まれていく。でも、追い込まれた時の仕事ってクリエイティブではないんです」

―― 心に余裕がないと良いアイデアも生まれませんね

川「怒りながらやる仕事で、創造性を発揮することは難しい。自分がせっかく仕事を締め切り通りに上げても、前の原画で全部止まってるとか、作監チェックが帰ってこなくて待機が発生するとかあるじゃないですか。
自分だけが頑張っている、空回りしてるんじゃないかという気持ちはクリエイティブに悪影響があります。大概の現場で大なり小なりそういったことが起きているのを、生成AIというものを使って少しでも良くできればと思っています。」

――本来のクリエイティブの姿に戻したいと

川「アニメは本来クリエイティブなものですし、それが我々を魅了しているはずです。
本来あるべきクリエイターとクリエイティブの関係性に戻るために、補助的なツールとしてAIを活用していくのが現在のイメージです。
また、それを用いた際のコストダウンからクリエイター自身の生活の余裕や金銭の余裕を生み、環境の向上に繋げることも今後の目標です。」

今後のAIの可能性と未来

アニメ・ゲーム・マンガ業界はこれまでも様々な制作過程の進化がありました。ゲームにおける3DCG、アニメにおけるデジタル化、マンガやイラストを制作する際にも今では制作ソフトの存在が欠かせません。
そういった補助的なツールとして生成AIを利用することができれば、クリエイティブの可能性も更に広がります。
「盗まないAI」を用いたアニメ現場のリアル、後編は実際にAIを用いた制作を行っている美術監督の大石樹さんにお話を伺います。

2024年12月19日、K&Kデザイン社は株式会社Creators’Xと手を取り、AIを用いたアニメ背景制作会社「スタジオSAIGA」を設立したことが発表されました。
Creator’s Xは「創るに没入しよう」をビジョンに掲げたアニメ制作会社です。
現在、創業メンバーの美術監督を積極的に募集中。興味のある方は是非下記よりご応募ください!

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