ついにUnityで遊技機開発ができる時代が来ました。
「ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン合同会社、「Unity for 遊技機」ライセンスを発表。パチンコ、パチスロを含む国内の遊技機・アーケード筐体の開発が月額9000円で可能に
ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン合同会社は加速する国内のリアルタイムコンテンツ開発をより強くサポートするため、「Unity for 遊技機」ライセンス(EULA)を発表しました。この追加ライセンスを別途受け取ることで、パチンコ、パチスロを含む国内の遊技機・アーケード筐体の開発が月額9000円にて提供する通常の「Unity Pro」のサブスクリプション版で、ロイヤリティなしに利用可能になります。」(ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン合同会社 プレスリリースより引用)
Unityといえば、ゲームアプリ業界を変えたと言っても過言ではない開発ツールです。3、4年前に簡単に3Dゲームが開発できるということで注目を浴び始め、今や3Dでゲームアプリを開発するとなると、まずはUnityで開発するのだろうと思ってしまうほどに一般化されています。Unityの全世界登録ユーザー数は450万人以上といわれており、調査会社の英ビジョンモバイルが2014年7月に発表した調査結果によると、ゲーム開発会社の47%がUnityを導入しており、そのうち主力ゲームエンジンとして利用している企業は29%にのぼります。アニメゲーム漫画業界の求人サイトラクジョブを運営している弊社ビ・ハイア株式会社には、3、4年前からひっきりなしにUnityの使えるプログラマーを採用したいというご相談をいただいています。それもそのはずで、ゲーム業界、特にゲームアプリの市場は急成長しています。
Unityと共に成長したスマホゲーム業界
2014年国内ゲーム市場は過去最高の1兆1,925億円、その中で国内ゲームアプリ市場規模は、前年比18%増の7,154億円。そして、この項成長率の裏にあったのがUnity登場による開発工程の革新的な変化です。ガラケー時代のポチポチゲーからスマホで本格的なゲームが楽しめるようになり、スマホコンテンツとしてのゲームのあり方が変わりました。プレイステーション2で発売された「ドラゴンクエストVIII 空と海と大地と呪われし姫君」のiOS/Androidへの移植、アクワイアからリリースされている「ロード・トゥ・ドラゴン」(ロードラ)のクライアント開発、カヤック配信の「ぼくらの甲子園! ポケット」、gloopsから配信されている「SKYLOCK – 神々と運命の五つ子」、コロプラの「白猫プロジェクト」、「魔法使いと黒猫のウィズ」など数々の有名タイトルがUnityを用いて開発されています。Unityがあったからこそ日本のゲームアプリ業界はここまで発展したと言っても過言ではありません。
Unityにするメリット・デメリットとは?
そんなUnityがこの度遊技機開発にも対応ということですが、なぜUnityは遊技機に目をつけたのか。まず、ゲーム開発と遊技機開発には深いつながりがあります。ゲームの開発を行ってる会社が遊技機の開発を行っているという話は少なくなく、ゲーム業界を影から支えてきたのも遊技機業界です。2004年のセガとサミーの両業界大手の経営統合は世間的には理解できない部分もあったかもしれませんが、業界内から見れば、ヒットに恵まれず経営不振の末にセガをサミーが実質的な買収という形で経営統合に至ったことは想像に難くありません。レジャー白書によると、遊技機業界の市場規模は2013年時点で18兆8180億円あり、2013年の国内ゲーム市場、の1兆1,448億円と比べても、約16.5倍の差があります。クリエイターの一人当たりの一ヶ月の稼働費用を表す人月でも20万円以上の差があります。市場全体としても仕事の単価としても圧倒的に優位なのが遊技機業界です。今回のUnityの遊技機進出もゲームアプリ開発で圧倒的なシェアを得た次のステップとして、親和性も高く、市場も比べ物にならないほど大きい遊技機業界へ進出という意味合いなのでしょう。
では、このUnityの遊技機進出は果たして上手くいくのか、今後どうなるのかについて考えたいと思います。そのためにUnityによるゲーム開発のメリットとデメリットを改めて考えてみます。
Unityのメリットとしては、
・ アセットが揃っており、基本的なゲームの開発がしやすい
・ マルチプラットフォーム対応なのでワンソースで開発できる
・ ジャンルを問わず開発できる
・ 導入コストが安い
Unityのデメリットとしては、
・基本以上の開発を行おうとすると割と大変
・AAAゲームタイトルなどハイエンドには向かない
という点が挙げられます。以上の総合的な理由から、ゲームアプリ開発ではUnityが使われ、コンシューマー開発では、UnrealEngineをはじめとしたゲームエンジンが使われることが多いのです。しかし、近年では、アクワイアの「絶対迎撃ウォーズ」がPS3/PS Vita用ゲームにも関わらずUnityで開発されており、Unityの性能の向上とともにコンシューマーゲーム開発でも用いられる事例も増えています。
Unityが遊技機開発に向く理由
そこで遊技機開発に目を向けると、遊技機開発はゲームアプリよりはコンシューマーゲーム開発に近い性質を持っています。遊技機のリーチなどの映像演出もその大半はプリレンダムービーで制作されており、台にはボタンやギミックが一つないしは二つ程度ついているだけでゲームのような複雑な操作性が必要ということはありません。そのボタンも映像演出のフラグでしかなく、その操作によって大当たりの確率が変動するということもありません。一生懸命ボタンを連打する人もいれば、一切触れずに静観している人もいますが、どちらでも結果は変わりません。つまりゲームと比べて圧倒的にリアルタイムの需要は薄いです。遊技機の映像演出はリアルタイム性が低い代わりに映像の細部にまでこだわりぬいた映像表現としてのクオリティが求められます。その点もハイクオリティなムービーで目を引くAAAのハイエンドコンシューマーゲームとの共通項とも言えます。
また、ゲームアプリ開発市場においてUnityが爆発的に普及した要因は、ゲームアプリが必要としていた3Dゲーム開発というニーズを十分に満たし得るツールだったことも挙げられますが、前述の通り、遊技機に3Dリアルタイムレンダリングのニーズは薄いです。その点から考えるに、ゲームアプリ開発におけるUnityの波及に及ぶほどの影響はないのではないでしょうか。Unityが遊技機業界で爆発的に波及するとすれば、Unityの存在が遊技機におけるリアルタイムレンダリングのニーズそのものを作り出すか、パチンコ・パチスロ以外のアーケードないしはカジノゲーム開発で使われるようになるか、そのどちらかではないでしょうか。あるいはもちろんUnityが現行の遊技機開発のフローを圧倒的に効率化し得るとなれば波及の可能性もあります。いずれにせよ現時点で、判断がつかない部分です。開発会社であれば、まず試してみるというのが一番でしょう。その検証の結果Unityを使用した遊技機が世にでるとしても、開発に2、3年という期間を考えるとなると市場的な評価が見えてくるのもまだもう少し先のことになるでしょう。また、Unity for 遊技機に関して大きなニュースがあれば取り上げたいと思います。