アニメとゲームのビジネスな関係
1月に入り、2016年冬クールのアニメが始まってきましたね。ライトノベルや漫画、コンシューマーゲーム、PCゲームのみならず、タブレットやスマートフォンを使ったネイティブアプリやソーシャルゲームを原作としたアニメも放送予定です。
2012年の「戦国コレクション」から始まり、今季も「ディバインゲート」の放送と、今後も人気のアプリゲームはどんどんアニメ化していくでしょう。現在でも一部のゲームアプリでは、PVやCM、オープニングムービーなどでアニメーションを使っている会社もありますが、今回は、ソーシャルゲームやネイティブアプリの会社がアニメ会社にお仕事を依頼するときにアニメ会社にちょっと戸惑ってしまうという事例のお話です。
業界の常識が違うことに起きるギャップ
オンラインゲーム業界(タブレットやスマートフォンを使ったゲーム全般)は、ゲーム業界の市場規模拡大に大きく貢献していると言っても過言ではありません。ファミ通ゲーム白書2015の2014年のゲーム業界の市場規模推移によると、ゲーム業界全体で、前年比の4%の1兆1925億円、その中でもオンラインゲームは、前年比13%増の7886億円になります。そんな伸び盛りのオンラインゲーム業界ですが、全体としての傾向がどんどん変化している印象があります。2010年に、コナミデジタルエンターテインメントからリリースされたソーシャルゲーム「ドラゴンコレクション」をきっかけにカードイラストバトルが流行り、しばらくその流れが続きました。しかし、2012年、ガンホーオンラインエンターテインメントからリリースされたネイティブアプリ「パズル&ドラゴンズ」の大ヒットともにパズルゲームやネイティブアプリで一発当てようという傾向が増えました。
そこで何が変わったかというと開発費です。ソーシャルゲームの場合、ブラウザを使うため、どうしても処理が遅くなってしまい複雑なことができませんでしたが、ネイティブアプリにしたことで、より多くの複雑なことをできるようになりました。そのため、よりゲーム性の良いものを作ろうとするために、開発費がどんどん増えていきました。現在、人気ランキングの上位に行くようなネイティブアプリの開発費は、正確な数字はわかりませんが、軽く億を超えるであろうことが予想されます。また、一本にかけられる単価が高くなったことによって、企業規模の小さい会社にとって新規参入がしにくくなったり、淘汰されたり、規模が大きい会社も安く大量に出してどれか当たればいいやという考え方から、一本にある程度のコストをかけ、広報と宣伝に力を入れる考え方に変わってきている印象があります。
今でこそ、2Dのイラストを切り分けて、Live2DやE-mote、SpliteStudioを使って動きをつけたりしていますが、もっと本格的な映像を作ろうとして、アニメ会社や映像制作会社に発注しようとするとアプリ会社とアニメ会社との感覚や文化の差にお互い驚いてしまうことが大きく分けて2点あると聞きます。
1点目が、素材の少なさです。今まで、イラスト中心で作ってきたオンラインゲーム業界でしたが、その名残か絵に対する情報が非常に少ないです。例えば、アニメ会社が映像を作る上で資料をくださいとお願いしたところ、キャラクターに対して立ち絵各1枚、背景が数枚とあと文字による世界観や設定がある程度ということがよくあります。そのため、立ち絵1枚では見えない背中や部分、場合によっては腰より下の部分の情報や喜怒哀楽の感情を表す表情差分すらないということです。ただよくよく考えれば使用頻度や制作工程が違うのでその点の差が出てくるのはしょうがないのかなと思います。
2点目が絵一枚に対する密度の差です。アニメ会社からこのイラストは動かせないよ・・・ということを伺うことがあります。ではなぜそのように言われるのでしょうか。
色々な人に飾り付けられて完成する一枚絵
オンラインゲームで使用するイラストは仕様さえ決まってしまえば、一枚作るだけであとは何回も繰り返し使うことができます。そのため、1人のクリエイターが1キャラクターのラフ、線画、清書、着彩をすることで作ることができます。
外部のイラストレーターに着彩までお願いして、最後は、他のキャラクターとのテイストのバランスを見つつアートディレクターが修正をかけるという最終工程以外は一人でもできる縦型の作業工程です。加えて、ゲームのキャラクターの場合、ある程度の世界観やテイストは考慮すれば、イラストレーターの個性もある程度反映できます。そのため、場合によってはフリルやレースなどの凝った衣装や服の柄、いろいろな色を使った着彩などをすることができます。そうするともちろん線や色の種類はどんどん増えるでしょう。
分業体制で大量生産なアニメ
一方アニメのお仕事と言えば、監督が作った脚本やラフコンテを元に、原画、動画、着彩、演出、背景美術、撮影、声当てなどを行ってアニメーションを作成していきます。
キャラクター部分だけでも、キャラクターデザイン担当がキャラクターデザインを作り、原画マンが原画を作り、作画監督がチェック、その原画を元に動画マンが原画と原画の中割りの動画を作成し、作画監督チェックと幾つもの作業工程に分かれる横割の工程になっています。動きをつけることによって、1キャラクターに対して何百枚、何千枚と書かなければならないアニメにとって、関わる人も1名ではすみませんし、何十名という規模になるでしょう。
そのように、何人もの人が何工程にも渡って大量に制作しなければならないため、最初のキャラクターデザインがかなり重要となります。そのため、監督のコンテとともに、まずキャラクターデザイン担当を最初に立て、その人にキャラクター全ての立ち絵や様々な角度から見た顔、喜怒哀楽の表情などを作成します。その際に注意しなければならないのが、原作のキャラクターのイメージを壊さないようにしつつも、他の人が書きやすいデザインにできるかです。もしソーシャルゲームのようなイラストでそのまま作ってしまうと一般的なアニメのデザインの倍以上の線の数になってしまうこともあり、後の工程の労力も時間もかなりかかってきてしまいます。まあ、お金と時間と人があればなんとかなるかもしれませんが・・・。もっとアニメ業界や制作過程を知りたいのであればアニメ「SHIROBAKO」はオススメです。アニメの制作過程や業界のあるあるネタ満載です。
違いを認めて共存していくことが大事
アニメ会社にゲームアプリ会社がアニメ作成をお願いする際は以上の2点を注意する必要があります。前者は、アニメ会社のキャラクターデザイナーに任せたり、最初の設定であらかじめ作っておくことも可能なので頭に入れておく程度でいいかもしれません。
しかし、後者に関しては、アニメ会社とのやりとりも含め注意が必要です。衣装によっては、大幅な変更であったり、ゲームの方のデザインを重視するのであれば期間や予算に関しては大きく変わってくるかもしれませんし、予算も期間も絞ってしまうと最終的にクオリティーに大きく影響が出てきてしまいます。
作画崩壊なんて言われた日には、アニメファンからもゲームファンからも叩かれてしまいかねません。ゲームアプリの人気が出たことで新しいアニメプロジェクトが増加したことはアニメ業界にとっても嬉しいニュースです。しかし、作り方を誤ってお互い損する結果になると次につながりにくくなってしまいます。お互いがお互いの文化を分かった上で一番ベストな形で作品作りを進められるよう、弊社としてもお手伝いして行きたいと思います。業界発展!