映像制作系の会社さんにお邪魔すると、よく聞かれるのが「業界的に平均人月っていま、どのくらいですか?」という質問です。その質問にそのままお答えすると、コンシューマーゲーム:人月50〜60万円、スマホゲーム:人月40〜60万円、CM、映像系:人月50〜65万円、パチンコ・パチスロ:人月60〜90万円。自分の会社はもしかしたら業界平均より人月が高いから、仕事が取れにくいのかもしれない・・・みんなどれぐらいの値段でやっているのか知りたい・・・できるだけ人月単価が高い仕事を取りに行きたい・・・経営者なら誰しもが考える悩みです。その気持ちは本当によく分かります。しかし、平均を基準値にして自社の値段を決めることは危険です!!
今まで6年間、アニメゲームマンガ業界で仕事をしてきて、延べ数千社の企業の社長に会ってきましたが、業界ごとの平均人月単価をしっかり把握している人はその20%にも満たないにもかかわらず、なんとなく「平均っぽい」数値に自社の人月単価を設定している確率、99%!(大山調べ)それもそのはず。Googleで「人月単価 相場」と検索して見てもSEの人月単価の話しばかり。きちんとこの業界に特化した映像制作の人月単価の平均を調べた人も、それを公表している人もいません。では、なんとなくの平均値とは、どこで得たデータなのかというと、普段接しているクライアントや横のつながりの制作会社などの、伝聞です。「みんながそう言っている」というのは現代の情報化社会の中では心理的に最も安心できる情報だと言われています。
https://raku-job.jp/news/companyrep/2044/
の記事にも書いていますが、2011年にグーグルによってマーケティングの常識は塗り替えられました。検索文化が発達するのと同時に、会ってから買うかどうかを判断するのではなく、競合他社をたくさん検索して調べてから買う、というマーケティング方式に変わって行ったのです。個人の消費活動だけではありません。当然、個人の集まりである会社でも、同じように外注先の探し方が変わって行きました。
本来、競合関係にある制作会社Aと制作会社Bでは、扱っている業務が同じだったとしても、社内で働く人の人数・スペック・性格が違う限りその生産性や仕事のしやすさには大きな差が出ます。どちらがいいというのも、クライアントになる会社との相性の部分も大きく関係してくるため、すぐには決められないはずなのです。しかし、前述したマーケティング方式の変化によって、制作会社までもが「映像系」という分類にカテゴライズされた一般化された情報として検索・比較されるようになっていきました。
この現象によって、クライアントは1社1社の代表と話をして発注を決める従来のスタイルから、複数企業の人数・人月単価・立地などのスペックを並べ立て、相見積もりを取ってそのうちの1つを選ぶといったようなコンペ形式に変わって行きました。この内、人数や立地などはHPから得られる情報なのですが、人月単価はオープンにされていない場合が多いため、必然的に噂や伝聞、見積書からの情報に頼らざるを得なくなります。例えば映像制作を行っている会社に発注を出したいと思った場合、クライアントは元々の知り合い会社とネットで「映像制作 外注」や「CG 制作」などで調べて出てきた会社とで、なるべくジャンルが合いそうな実績を載せていたり、場所が近かったりする会社にメールをして見積書の送付を依頼します。そこには、どのぐらいの期間でどんなスタッフが対応して、そのスタッフがどれだけの知識を持っているのか、作品への愛があるのか、チェックバックのマメさはどうなのか、直しは何回までOKで対応の仕方などの温度感はどうなのか?この会社だからこその強みはどこなのか?と言った情報は一切加味されていません。そのような状態で選ばれた会社にもたらされる情報とは、「〇〇円で見積もりを出したら通った」です。
これでは、「いかに費用対効果高く、なるべく価格を抑えて発注ができるか」という指標しか有りません。本来、映像制作に必要なのはユーザーを感動させる素晴らしい作品を作る事です。そのためには、外注先の選定1つとってもまずは素晴らしい作品を作るためにどのように手を組めるか?が最初であり、インターネットショッピングをするような感覚で外注先を探しているのではうまくいかなくて当然です。映像制作に携わる会社数も増え、前述のように購買方法が変わったことで、受注する側もインターネット上でいかに目立ち、選び易くするかに着目しがちですが、自社の良さというものはみんなにわかりやすく文字にして一般化しようとすればするほど陳腐化しますし、どんぐりの背比べになってしまいます。文字情報だけでの勝負がつかない場合に人月単価を安くして差別化しようとすると、自分で自分のクビを締めてしまう結果になります。特に、その安くした人月単価で受注ができたという成功体験が広まり、受注側も発注側も「このぐらいの人月単価で仕事が成り立つんだ」と思ってしまったらそれこそ悲劇です。伝聞や平均に惑わされて全体がどんどん人月単価を落としていくと、結果作品のクオリティも落ちるか、クオリティを落とさず現場が消耗するという業界全体の存続に関わる事態になりかねません。実際、この数年間の間にCGのクオリティやコンテンツとしての売上高は上がり続けているにも関わらず1企業辺りの売上高は横ばい・やや下がり気味になっています。
(平成26年情報通信業基本調査:https://www.meti.go.jp/press/2014/10/20141028002/20141028002-3.pdf)
映像制作会社社長の皆さん、自社の価値を低く見積もっていませんか?クライアント任せや噂任せで価格を決めるのをいますぐ辞めてください。1人1人のスタッフの実力に見合う自社の価値を決められるのはあなただけです。そのためにも、まずはしっかりと噂や知り合いベースではない正しい人月情報を知るためにしっかり情報を収集しましょう。これからもその情報について配信していきたいと思います。