ゲームの映像化
テレビゲームの映像化というと、「大丈夫なのか」と不安に思う人は少なくありません。映像作品としてではないコンテンツを映像化するということは、並大抵のクリエイティビティでは制作することが難しいのです。この記事で映像作品化するというのは、「ポケットモンスター」や「ファイナルファンタジー15」のように、もともとはゲーム作品であったものをアニメや映画にするということを指します。
ゲームの映像化が難しい理由は何と言ってもストーリーに関することでしょう。ゲームというのはプレイヤーの行動によって体験する内容が変化するものです。それを映像作品にすると、作品の頭から終わりまで、時間の流れに沿って決められた物語を描く必要があります。要するにゲームよりもより明確な「流れ」を描かなければ、映像作品として整合性を持たせることはできないのです。それゆえ、元々の作品に映像化できるほど物語性が無い場合は、その映像作品におけるオリジナル要素を入れなければならない場合が出て来ますし、またRPGなど重厚長大なストーリーの作品などに関しては、逆にストーリーのどこを削らなければならないのかということを議論する必要があります。そして実写映画なのか、アニメ映画なのかによってもストーリーの作り方がどうしても変化してゆきます。実写の場合撮影技術との兼合いで、どうしても無理やりなストーリーにせざるを得なかったりする場合があります。日本の漫画作品の実写化などで特に顕著で、良いか悪いかは別として、「進撃の巨人」の実写映画版は漫画版とはかけ離れたストーリーになっていました。
朝日新聞デジタルは5月16日、ゲーム業界最大手の任天堂が映画事業に参入する見込みであるという内容の記事を公開しました。
任天堂、映画事業に参入へ 「マリオ」などアニメ化検討
https://www.asahi.com/articles/ASJ4Z0R76J4YPLFA002.html
(引用開始)
君島達己社長が朝日新聞の単独インタビューに答えて明らかにした。任天堂はこれまで、キャラクターを使う権利を制作会社に与え、使用料を得る形で映画づくりにかかわってきた。君島社長は「できるだけ自分たちでやっていきたい」と述べ、単体で成り立つビジネスにしていく方針だ。
日本だけでなく米国など世界市場を意識しており、第1作は2~3年後の完成をめざす。映画だけでなく、家庭向けビデオ作品を世界各国で販売することも検討しているという。
作品の内容は明らかにしていないが、「マリオ」や「ゼルダの伝説」の主人公「リンク」など、世界で人気の高いゲームのキャラクターが登場する3Dアニメ映画が有力だ。
(引用終わり)
任天堂は既にポケットモンスターなどのアニメ化で映像作品化を経験しています。映画に関してもポケモンシリーズの人気は高いですし、「劇場版 どうぶつの森」はゲーム作品のヒット時期に併せて放映したこともあって好調でした。失敗した例もあります。「スーパーマリオ 魔界帝国の女神」というマリオのハリウッド実写映画です。マリオ役にボブ・ホフキンス、クッパ役にデニス・ホッパーなどの名優を起用し、脚本も3人がかりで制作し、約4800万ドルという莫大な製作費をかけて作られましたが、今ではすっかり「失敗したゲーム実写化映画」の代表格として名前が挙げられてしまうという結果になってしまいました。
任天堂が映像産業に本格参入するということで気になるのは、ポケモン以外でどのような映像作品が作られるようになるのかということです。特に注目されているのが「ゼルダの伝説」です。海外などでは一時期アニメ作品も放送されていましたが、ゲーム本編とかけ離れた内容に別の意味で注目が集まりました。同じく朝日新聞デジタルでは、君島社長のインタビューが掲載されており、ゼルダの映像化について触れています。
「ゼルダ」映画化の可能性は? 任天堂・君島社長に聞く
https://www.asahi.com/articles/ASJ5903YMJ58PLZB00Z.html
(引用開始)
――映画化なら、特に海外で人気の高い「ゼルダの伝説」が向いているようにも思います。
「そういう意味では、大変、求められているものは一つあるということは理解していますけどね」
――ゼルダを映画化したいという人が多いと。
「そうです。多いです」
――映画や映像そのもので稼ぐのですか。
「我々のIPに触れる人の数を増やすのが最初の狙いです。ソフトウェアをつくって、(ゲーム機などの)ハードで遊んでいただくことが中核ビジネスですので、そこにどう効果をあげるか。とはいえ、単なる宣伝費では困る。それなりのビジネスとして成り立つようにしたいと思います」
(引用終わり)
海外では非常にクオリティの高いファンメイドによるゼルダの伝説のCGアニメや実写映像が作られています。ゼルダの伝説の人気が高いのは日本よりも海外が中心です。映像化に成功すれば、世界中のゼルダファンが注目することは間違いありません。引用箇所にもある通り、当面はIPビジネスの側面を重視する構えの様です。それはユニバーサル・スタジオ・ジャパンとの協同によるテーマパーク事業参入など、任天堂が自社IPの普及にかなり力を入れていることが伺えますが、映像事業を「それなりのビジネスとして成り立つようにしたい」という発言には、映像作品としてしっかりしたものを作るという方針が見えるのではないでしょうか。3DSの「新・光神話パルテナの鏡」や、Wii U専用ソフト「スターフォックス・零」のキャンペーンでも、アニメ映像作品を公式サイトやYou Tubeで公開するなど、ゲーム作品と連動した映像コンテンツ制作は少しずつ行ってきた任天堂。もし映像でも好調になれば、ディズニーやピクサーなどと肩を並べる映像コンテンツ企業になる……かもしれません。業界発展という視点から見ても、今後の任天堂の映像コンテンツ事業には目が離せません。
(画像はAmazonより)
記事を読んでいただきありがとうございました!