手付かず?若者の自殺対策
記事を読んでいただきありがとうございます。今回の記事は子どもの自殺とアニメゲーム漫画はどのように関連しているのかということについて書いた記事です。一般的に日本の自殺者は3万人とされています。長年、若者の生きづらさ、自傷行為、自殺などを調べてきたフリーライターの渋井哲也(しぶい てつや)さんの記事に、「自殺対策基本法改正で何が変わるのか(上)」というものがありました。自殺防止の基本計画が都道府県単位のみならず、地方自治体、市区町村レベルで義務付けられた今回の改正で何が変わるかという記事です。その中で、興味深い箇所がありました。
(引用開始)
基本法ができた当時、O氏のような中高年男性の自殺が極端に増えていた。関係者の間では、増加した中高年男性の自殺をいかに減らすかが主眼だった。自殺者数を年間3万人に押し上げた最大の要因だったからだろう。
以前から若者の自殺を中心に取材していた私は、基本法成立当時、厚生労働省やNPOの関係者に「若者の対策はしないのか?」と聞いたことがあった。すると、「若者がなぜ自殺するのかわからないですからね」などの返事があった。中高年と比較して自殺者が少ない若者への対策は、後回しという印象だった。
(引用終わり)
私は自殺対策は若者にするべきだと考えていましたが、まさかの「若者がなぜ自殺するかわからないので対策しようがない」という自体になっていたというのです。これには驚きました。
子どもが自殺する理由
警視庁による「平成27年中における自殺の状況」によれば、自殺の動機が明らかになっているものの中で、19歳未満の自殺の理由は「学校問題」「健康問題」「家族問題」と続き、20~29歳は「健康問題」「勤務問題」「家族問題」と続きます。ちなみに15歳から39歳までの死因一位は自殺であり、先進国の中でも異例の多さです。確かに、防止するのが難しい「学校問題」や「家族問題」、「勤務問題」が自殺の動機の上位です。今回の改正で市町村レベルで防止基本計画がなされることによって、家庭や学校などのプライバシーが及ぶ箇所に対して、市民の目の強化などが呼び掛けられれば良いのですが、都市部など地域社会が形骸化して久しい地域では、どのように自殺を防止するのかということを考えるのは難しい問題です。
自殺を扱う時の注意点
このような暗い問題に対してアニメゲーム漫画ができることは何でしょうか。内閣府は「自殺予防 メディア関係者のための手引き」というWHOの基準に基づく資料を、メディア関係者各位に配布しているのです。それによると、「自殺を、センセーショナルに扱わない。」「自殺の報道を目立つところに掲載したり、過剰に、そして繰り返し報道しない」「著名な人の自殺を伝えるときには特に注意をする」というようなことが書かれています。何一つ守れてないような気がするのは私だけではない気もしますが、それは置いといて、アニメゲーム漫画の表現や内容に対しても、このような評価基準があるのだということを深く知っておく必要があると思います。この基準に照らしてアニメゲーム漫画業界も自殺防止に賛同するならば、自殺に関する啓発や教育を行い、自殺を扱う際には注意が必要ということになります。
なぜこのようなものがあるのかといえば、「ウェルテル効果」という社会心理学的な理由があります。ゲーテ著『若きウェルテルの悩み』を読み、主人公が自殺することに影響を受け、出版後に若者の自殺者が増えたという現象がありました。ニューヨークタイムズの一面に掲載された自殺と、1947年から1967年までの全米の月刊自殺統計を比較する事で、報道の自殺率に対する影響を証明したアメリカの社会学者Phillips (1974)によってウェルテル効果となづけられ、その後の自殺報道に警鐘を鳴らすものとなっています。日本には「表現の自由」というものがあります。文芸の世界においては人間のネガティブな心の動きは芸術として受け止められるという文化もありますから安易なことは言えません。しかし、自殺を扱う際には注意が必要です。
自殺の悲惨さよりも、生きることの素晴らしさを伝えることが大事
私個人としては、自殺を扱う作品だろうが、そうでなかろうが、「生きて、考えることはとても楽しいことなんだ」ということを、最終的に読者に対して伝えることが肝要であると思います。想像力を掻き立てることは非常に重要ですが、アニメゲーム漫画というメディアはそれに触れる人に対してい大きなインパクトを与えます。もしも作品として「死」や「自殺」を全面的にフューチャーしたいのであれば、「自殺を助長、推奨するものではありません」といった注意書きなどを明確に表記するのも一つの手段であると思います。「自殺」という人間の死の一つの形を通して生きることを伝えたい、という場合も、視覚的に影響を与えやすいアニメゲーム漫画の場合、より一層の注意が必要であると考えます。幸せに暮らそう~という作品ばっかりあふれるのも気持ちが悪いですが、自殺の問題を考える上では、アニメゲーム漫画に対するウェルテル効果の影響も考えなければならないと思います。