大手企業が新卒採用を大切にする理由 中小企業は即戦力の中途経験者を採用したがる理由

本日(2016年3月22日)の日経新聞朝刊の一面には以下の記事が掲載されていました。

nikkei来春の大卒採用10.7%増、サービス業など旺盛 本社調査

日本経済新聞社は21日、2017年春の新卒採用計画調査(1次集計)をまとめた。主要企業の大卒採用は16年春の実績見込み比で10.7%増となる見通しだ。国内外で市場が拡大するレジャー産業をはじめとするサービスや小売りなどの非製造業で採用意欲が旺盛だ。製造業の一部が抑えるため、伸び率は16年春計画(14.6%増)を下回る。

今回は日経が取り扱うような主要企業(大手企業)がなぜ新卒採用を大切にするのかについてです。

shutterstock_147480482中小企業ほど即戦力を採用したがる

「大手企業にはそれだけいい人が集まっているからいい作品も作れる」

それが多くの人が考える常識だと思います。だからこそ中小企業も新卒ではなく、実力のある中途経験者をできるだけ多く採用して、大手企業から見ても見劣りしない会社を作り上げようとします。しかし、実際には大手企業ほど新卒採用を大切にしています。中途経験者の採用もありますが、一般的に考えられるような「経験者が採用できないから仕方なく新卒を育てていく」という意識ではなく、「新卒を採用することが会社の利益から見てもいいことだ」という考え方を持っています。

shutterstock_290346584中途経験者採用のデメリット

新卒のスキルが中途より高いということはまずありません。新卒を採用すれば、その新卒が最低限のスキルを身につけるまではコストになります。時間もお金もかかります。その上、早期に離職させてしまうと、かけたコストの分丸々損になってしまいます。できるだけリスクを少なくしつつ、大きなリターンを得ようとすれば、中途経験者採用は合理的な選択のように見えます。

しかし、中途経験者ばかりを採用してしまうと失ってしまうものもあります。それは直接数字には表れにくいものですが、だからこそそこを理解しているかしていないかは大きな差となって現れます。

中途経験者採用ばかりになると失われてしまうもの、それは会社の風土です。「風土なんてなくても仕事ができればそれで構わない」という意見もあるかと思いますが、風土がしっかりしていますから仕事が上手く回ると考えることはできないでしょうか。

社内でも大切な信頼関係

中小企業の経営者であれば、仕事において「信頼関係」がどれほど大切なものであるかは骨身に染みて理解していると思います。クライアントの期待に十分応えることができれば、次の仕事の相談も続くようになりますし、外注先にも丁寧に対応していれば、しっかりとした仕事をしてくれるようになります。

しかし、一方で社内の人間関係における信頼関係を重視で来ている会社は、対外的な信頼関係の重要性を理解している会社ほどは少なくありません。中途経験者を採用することの大きなリスクは、よそのやり方を持ち込まれることです。「前の会社ではこうやっていた。こっちの方が効率がいいのだからこうすべきだ」と無理矢理に以前の会社のやり方を押し付ける人は少なくありません。

もちろん、それは一概に悪いことではありませんが、大切なことは「それが最善のやり方であるかどうかの前に、会社が納得する方法であるか」ということです。創業当初から会社のやり方、あり方をしっかり醸成していた会社と行き当たりばったりに仕事をしていた会社とでは、時間が経てば経つほど差が開きます。

Fotolia_68676138_Subscription_Monthly_M会社のあり方

例えば、よく聞く話では、新しく入れた中途経験者が思ったような働きをしてくれず、案件を炎上させた。新しく入れたディレクターが辣腕を振るおうと暴走して長年のクライアントを怒らせる、部下にもきつく当たる、社内外をめちゃくちゃに引っ掻き回した挙句、最後には「この会社は悪い」と言って会社を辞めていく、そんな実体験も耳にします。

中途経験者には、基本的に「即戦力」としての働きを期待します。しかし、中途経験者だからと言って、「会社が求めている即戦力」にジャストフィットするような人材はなかなか見つかりません。どうしても、会社が妥協するか、中途経験者が我慢するか、あるいはその両方かとなってしまいます。やがて会社がその溝を抱えたままの人たちばかりになってしまうと、会社としての形が徐々にぼやけてしまいます。

新卒採用の場合、確かに教育コストはかかりますが、その分時間をかけて、会社の考え方やカルチャーを教え込むことができます。もしそれに合わない人が出てきても、新入社員がすでにカルチャーを醸成している会社自体を揺れ動かすだけのことはできません。

shutterstock_151473575社長が会社をどうしたいか

もちろん、会社のカルチャーが悪い方に醸成されてしまえば、会社全体が腐敗を始めてしまいます。そうならないためにも、社長の中に「自分たちの会社はかくあるべき」という強いイメージがある必要があります。そこから外れたら教えるなり、怒るなりして、軌道修正を図る必要があります。

大手企業は社長が高いビジョンを持ち続けたからこそ、大企業になって、高いビジョンを持ち続けているからこそ、そこにより共感できる可能性の高い新卒の採用を重視します。

逆に言えば、「新卒採用はダメだ、経験者しか採用しない」と言ってしまっている会社は、「今」をなんとかしてくれる「即」戦力を採用しなければならないという思いに捕らわれている可能性があります。人材を採用するからには何十年も時間をともにすることが基本です。そう考えるのであれば、会社の未来あるべき姿も見据えた上で、今どんな人を採用することがベストかも見えてくるのではないでしょうか。

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