アニメゲーム漫画業界でクリエーターとして創作をする人にお奨めしたい発達心理学の考え方

記事を読んでいただきありがとうございます。ビ・ハイアの床井です。今回の記事では、「クリエイターに紹介したい発達心理学」といういささかマニアックなテーマで記事をお送りしたいと思います。

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「発達を科学する」それが発達心理学

発達心理学は、「人間の知能の発達を科学する学問」です。例えば子供が自転車に乗る練習をしているとしましょう。最初はどうやって乗れるのかまるきり分かりません。何度もペダルに足を乗せ、転び、ハンドリングミスをし、少しずつ上達し、ある時に乗れるようになる・・・。このような人間の発達や上達に際して人間の中で何が起こっているのか、それを解き明かすのが発達心理学です。

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クリエイターにこそ役に立つ学問

発達心理学は、知っていると非常に役に立つ学問だと思います。特にクリエイターにとっては強くお奨めしたい学問です。理由はいくつかあります。まず、クリエイターは「創造する」という極めて特殊な仕事であり(職種にもよりますが)、普通の仕事よりも上達の方法を思い浮かべにくい、という事があります。

例えば会社員で事務の仕事をしているのなら、必要な技能はExcelやwordなどのパソコンのソフトウェアになります。これらのツールは手引き書も沢山ありますし、それを上手く使いこなせば仕事で活躍する事が出来ます。こうした単純なケースについては、上達したいものと、その方法を結びつけることは簡単なことです。

しかし「物事を創造する」という仕事になってくると、これにはっきりとしたマニュアルは存在しません。「これだけの事をすればこれだけの結果が得られます」というような分かりやすい解決方法は存在せず、クリエイターが思い思いに工夫し、努力を積み重ねる必要があるのです。

発達心理学を知る事で、このような「決まった方法が不明確な領域」についても、ある程度の見通しを得る言葉が出来ます。理論的な背景のもと試行錯誤をすることで、より効果的に自分の求める結果を出すことが出来るようになります。

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人間の発達は直線的に起こるわけではない

今回の記事では、クリエイターの方に知ってもらいたい発達心理学のさわりの部分についてご紹介したいと思います。

現在の日本では、人間の成長や発達が直線的に、はしごや階段を上るように起こる、と言われています。その証拠として、小学校から大学まで、あらゆる学問のカリキュラムは基礎的な事項から段々にステップアップするように設計されています。

しかしこうした考え方が実は間違いである事が、近年の発達心理学の研究によって言われています。発達心理学者のカート・フィッシャーという人が、「知能の発達は『ウェブ状』に起こる」と言っています。すなわち、人間の知能は色々な要素が四方八方に枝分かれして編み目を成すように拡張していくようなものであると言う事です。

人間の脳の中では、あらゆる方向への学習が同時進行している。そして特定の技術や知識同士がまるでジグソーパズルの様に1つの絵になったとき、その人の中に一気に進歩が起こる、というモデルです。

この発達観に立つと、万人に意味のあるカリキュラムや学習方法は存在しない事になります。なぜなら現在進行形であらゆる事を学習し続けているのが人間なのであり、どんなタイミングでどんな能力が開花するかはその人によるという話になるからです。

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科学的に証明されている「大器晩成」

こうした発達心理学の考え方を知っておくと、仕事で新しいスキルを身につけようと思った時や、作品のアイデアを考えようという時に役に立ちます。私達は進歩が滞った時に、「これは自分の努力が足りないせいだ」と考えがちですが、こうしたとらえ方は物事の一面しか見ない考え方です。

進歩は複数の要素がネットワークを作り1つの絵になった瞬間に起こります。自分が目標とする力が身につかない時に、足りないものは努力ではなく別の要素かもしれないのです。それはしばらくの休養かもしれませんし、気づきを与えてくれる他者の存在かもしれません。あるいはただ時間を置くことかもしれません。

作家の村上春樹さんは、28歳のある休日の日に、野球の観戦をしていた時に作家になる事を思いついたと言います。バッターがホームランを放ち、そのボールを目で追い掛けていた最中、天啓のように「作家になろう」と決心したと著作の中で述べています。

彼は長年にわたって海外の文学に親しんでいました。そして小説を読む傍らジャズ喫茶の経営を続けていました。その瞬間はそんな体験や、色々な知識が脳の中で整理・統合され、脳内で繋がった瞬間だったのだと私は思います。色々な蓄積が一枚の絵になった瞬間「作家になろう」と思ったのではないでしょうか。

この例の様に、自分が思いもしないタイミングで新しいフェーズに移行する、という事が誰にでも起こりえます。「大器晩成」という言葉がありますが、発達心理学はこの言葉の正しさを証明してくれます。

jh論理的に、気長に続けていきましょう

それでは最後に皆さんにお奨めしたい発達心理学の本をご紹介したいと思います。「上達の法則」という本です。

この本には、「上達」に必要な発達心理学の知見が詰め込まれています。毎日の仕事や練習の中に、どんな隠されたプロセスが隠されているのか知ることで、ルーティンの繰り返しを意味のあるものとして捉える事が出来るようになると思います。村上春樹さんにおとずれた経験のような瞬間を待って、毎日を大事に取り組んで欲しいと思います。

 

 

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