知り合いの知り合いは知り合い?
アニメゲーム漫画業界は狭い業界です。現時点で日本のアニメゲーム漫画業界は全て併せても売上で3〜5兆円程度。社数も5000~10000、就業人口も20〜30万人程度でしょう。さらに会社も都市部や一部の地方に集中しがちです。特にアニメの制作には、企業間の協力が不可欠です。大きめな劇場アニメを見に行くと、エンドロールで主要なアニメ制作会社の名前がどこかしらにクレジットされているのがわかると思います。
知り合いの会社から転職希望、どうしますか?
つまりどういうことかというと、業界内で転職しようとすると、受け入れ先の企業にとっては「知り合いの会社から転職の応募があった」ということが多々あります。実際、業界内でそこそこ有名な人になると、「○○にいた××さん、転職して□□に行ったらしいよ」とか「××さん会社辞めて、独立したらしいよ」という話も珍しくありません。
少し前にMGSの小島秀夫さんがコナミを辞めて、自分のプロダクションを設立したことが世間一般的にも話題になりましたが、規模の大小はあれ、あのようなことは業界内では珍しいことではありません。クリエイターが良い環境を求めて、転職、独立すること自体をどうこう言うつもりは全くありませんが、クライアントや懇意にしている会社から転職希望があったとき、企業としては対応に困るのではないでしょうか。
まずその時に一番に確認してほしいことは、その人がすでに会社を辞めているのか、まだ在籍しながら転職活動をしているのかということです。もし会社を辞めているのであれば問題ないですが、会社を辞めていないのだとすると引き抜きだと思われる可能性があります。企業同士の受発注は信頼関係の有無が非常に大切なポイントになります。その人がもたらしうる利益とその会社との信頼関係に対する傷を比較検討した上で決断する必要があります。もちろん、会社を辞めているかどうかはその会社ではなく、その本人に聞いてください。
直接確認するのが一番早い
もし、会社を辞めている場合であれば、相手の会社にその人の評判を聞いてみるのも一つの方法です。なぜ辞めたのか、前職ではどのように働いていたのかは、選考の上で非常に大切なポイントですが、本人の口から正直な意見が聞けるとも限りません。辞めた理由ももちろん聞く必要がありますが、辞められた側の意見の方がより参考になるのは間違いないでしょう。
円満退職できているのであれば、プラスの言葉が多くなりますし、喧嘩の末に退職したのであれば、歯切れが悪くなるかもしかしたら一言では語りつくせないエピソードが飛び出てくるかもしれません。もちろん広く公表されていい情報ではありませんので、元々仲のいい人がある場合に酒の席にかこつけて聞ければ僥倖ぐらいに考えてください。採用の参考にもなりますし、相手との関係性構築にもつながります。
いつの時代も口が軽い人には要注意
もう一つ必ず確認してほしいのは、「その人がどういうつもりで自社を志望したのか」ということです。一般論でいえば、就業規則や誓約書には競業禁止(同業他社への転職や、同業の開業)があります。これは、転職が前職の利益を損することのないようにする規定で、競業避止を言われています。著しく機密性の高い情報や独占的な利益をもたらすような技術の漏えいを防ぐ目的があります。
例えば、企業間でもNDAを結ばずに実績を見せることはできません。また、NDAを結んでいたとしてもまだ公表されていない、リリースされていない現在進行中のプロジェクトに関して具体的な話をすることはないでしょう。しかし、転職の場合、実績として平気で前職のプロジェクトの詳細を明かす人や未発表のタイトルの話をする人がいます。こういう人たちは、業界の常識や競業避止を全く理解していません。業界内で、しかも取引関係にあるような会社に転職を希望するのであれば、前職のタイトルやプロジェクトの詳細を伝えるのは避け、自分の担当業務について文字や口頭のみで説明するのが精いっぱいのはずです。
法的リスクを理解しているクリエイターを採用してください
協業忌避の規定は、憲法の職業選択の自由と対立します。実際、裁判で法的紛争に発展し、個人に賠償の支払いを命じた判例もあります。業界内の転職がいくら常識になってしまっていますが、世間一般から言えば、数百万から数十億円のリスクがある行為です。立場によってはそれだけの損失を与えうる行為であると自覚する必要があります。
それがわかった上で違反に当たる可能性がある行為を取るリスクは自由です。自覚のある人とであれば対等な話もできるでしょう。しかし、そのことに無自覚な人を採用することは、将来的なその人が自分の会社を辞めることがあったときに、同じことをされるリスクが高いですし、業務上も対外的な仕事を任せにくくなってしまうでしょう。採用を考えるにはリスクが大きいです。
知り合いの会社からの応募を全て無下に断る必要はありません。しかし、実際に採用するかどうかについては慎重な判断が必要になってくるでしょう。そのような巡り合わせがあったときには、ぜひ参考にしていただいた上で判断していただければと思います。もし、アニメゲーム漫画業界の採用に関してお困りのことがあれば、ご連絡いただければと思います。