2016年は、8月26日より公開された「君の名は。」や11月12日に上映を開始した「この世界の片隅に」などのヒットによって改めて日本の作画アニメに注目が集まった年になったと思います。そうなるとその波に乗って一本当ててやろうと思う企業が他にもどんどん出てくるのではないかと思っています。しかしながら今までにアニメを製作していない企業はほぼ企画が止まるか炎上するかのトラブルになるでしょう。今回はそんな会社様向けの記事になります。
アニメ製作は簡単ではない
まずアニメを作るには大きく2つの役割を持った組織が必要です。アニメに出資し権利を持つ製作側、アニメーションを作る制作側の2種類です。今回、出資としてアニメ業界に参入しようとしている企業様は衣がつく側の製作になります。そして新規で参入する製作会社でまず思ってしまうのが、お金さえあればアニメが作れるという考えです。例えばこのアニメの尺がこれくらいで制作期間がこれくらいだから、これくらいまでには放送や上映できるでしょうと考えます。しかしこの考えでは納得のいくクオリティになることは難しいでしょう。それは予算を倍にしたからといって変わるものではありません。なぜならアニメ業界の事情を把握していないからです。
アニメ業界の制作現場
一番知ってもらわなくてはならないのが今のアニメの制作現場です。現在のアニメはTVシリーズや劇場版アニメなどで年間400本ほど放送されています。1タイトルあたりのアニメの放送時間が短くなりつつあるので一概には言えませんが、単純にタイトル数で言えば、2000年代の年間150本を考えれば、15年間に倍以上のタイトル数になっています(日本動画協会)。
一方で制作の人は増えたのかと言えばそういうわけでもありません。そのため、実質的に一人当たりの作業量が増えているということになります。そしてアニメの制作容量を超えてきているというものを示しているのが、昨今のTVシリーズでの総集編の多さです。以前であれば2クールの間のストーリーを振り返るために行われていた総集編ですが、今では1クールのアニメに2話以上の総集編を加えるアニメタイトルもちらほらあり、最終的に最終話は数ヶ月後に放送しますということもしばしばあったりします。
また、アニメの制作現場にどれくらい仕事が溢れているかと言えば、例えば大手の元請け会社であれば、2年や3年先まで仕事が埋まっていたりします。加えて、それは各クリエイターにも言えることです。監督や演出家、作画監督、原画など有名なアニメーターは3年、4年先まで仕事の依頼で囲われてしまっていたりします。そのような状況知らないまま、放送や上映時期だけ決めて制作に取り掛かったとしてもまずスケジュール通りに進まないというわけです。
知っておかなければならないアニメ制作の前準備
先に書いたことはあくまでもアニメ制作に取り掛かってからの話になります。しかしアニメ制作にはこれよりも前の段階でもかなりの時間を必要とします。現場の人たちがアニメ制作の上で大事にしていることは、アニメの設定です。キャラクターや背景、美術などなど細部にわたって決めていきます。これも多くの工程を多数のスタッフで作業するためには必要不可欠なことです。もしこれが曖昧のまま制作を始めてしまうと、作画が崩れたり、背景に矛盾が生じたり、配色が変わったりと違和感のあるアニメになってしまいます。そのため、アニメの制作会社は、原作があるものであれば、3ヶ月から半年、完全オリジナルであれば1年以上の期間をかけて設定を固めていくのです。そのためあまり設定のいらないショートアニメーションでない限り、3ヶ月や半年で30分や1時間のアニメをつくってほしいというのは無理な要望なのです。
新規でアニメを製作したい企業の方は
これらの事情を把握した上でアニメ製作に参入したい企業が行わなければならないことは、まずどのようなアニメを作りたいかを明確にすることです。企画を明確にすることによって、設定制作の際にアニメの制作会社との認識のズレがなくなります。逆にこれをしっかり行っておかないと、制作途中での大幅な修正につながり、制作期間が大幅に伸びてしまいます。次にするのが、スタッフの確保です。作りたいアニメのテイストによって得意な監督、演出家、作画監督、原画のスタッフも変わってきます。人気な方にやっていただきたいのであれば当然その方が空くのを待たなければなりませんし、最低限、必要人員を集められない状態で制作を始めても期間としては伸びてしまいます。これらの企画を明確にするとスタッフを確保するという2つの条件が揃って、いつ放送するか上映するかを決定したほうがいいです。
最後に、新規参入のアニメ製作会社に期待すること
現在、アニメの相場は、1クールのアニメで大体、2億から2.5億くらいになっています。しかしながらこれら末端のアニメーターに行くまで配分するとほんの少ししか残らず、月収10万以下のアニメーターが出てしまっているという現状があります。このままでは日本のアニメ業界自体が衰退してしまいます。そのため、新規で参入される企業には末端のアニメーターにもその恩恵が行くような働きかけをし、低予算、長時間労働と言われているアニメ業界を変えていってもらえればと思っております。