待てど暮らせど届かないポートフォリオ
イラストレーターや3Dデザイナーなど、デザイン系人材の求人を行っている企業さまからよく出る話として、「面接してみたいと思っているのに、その前段階のポートフォリオが送られてこない!」ということがあります。デザイナーの採用なのにデザインの実力が分からないのでは、応募しても採用される気が無いとみなされて当然です。仮にいくら「やる気重視の社風です」と書かれていたとしても、「やる気のある文章」だけで自分のことを分かってくださいという人がいたとしたら、それってむしろ投げっぱなしでやる気無くないか・・・?と思われてしまいがちです。細かい入力項目を入力して、応募ボタンを押している時点でやる気がないわけではないはずなのですが、こうした「応募だけして音信不通」の状況は頻発しています。それは一体どうしてなのでしょうか?
「作品を確認出来るURL」なしは論外、それだけでも不十分
ラクジョブの求職者登録ページには「作品を確認出来るURL」というものが有り最近ではそちらにPixivのマイページURLや、自作の作品サイトのURLを入れてくれている人も多く居ます。ある程度の画力はそちらのサイトでも確認することはできますし、そこに入力がある人は比較的選考しやすく、一定の画力が有る人はむしろ企業側から積極的にアプローチがあったりと選考にプラスに作用することが多分にあります。こうした「作品を確認出来るURL」という項目があるために、より一層何もデザイン能力を測る資料がない人への風当たりは強くなります。ただ、「作品を確認出来るURL」に入力済みの人が完全に安心できるわけではありません。この項目は必須項目でないことから分かるとおり、求職者のみなさんが企業さんに興味を持ってもらうために助力できればと設置されたいわゆるオプションにしか過ぎません。「作品を確認出来るURL」に入力が有る人でもポートフォリオ提出が免除されることはほぼほぼないと考えて良いでしょう。それは、デザインセンスや作画の美しさだけが、選考の基準ではないためです。では、デザイナーを募集したがっている企業担当者が頑なにポートフォリオをほしがるのはなぜなんでしょうか。Webサイトとポートフォリオの違いをおさらいしてみましょう。
企業担当者が見ているポートフォリオでの選考基準は
デザイナーが用意すべきポートフォリオの最低条件は、作品が10枚程度入っていること、作品1つ1つのコンセプトや説明、制作時期、制作期間、使用ツールの記載があることです。最近では、3Dデザイナーのポートフォリオでも手描きデッサン作品が1〜2枚入っていることも重要視されてきました。新卒は、学校の課題で作成したもの以外の個人制作作品を用意すること。経験者は商業作品などで名前が出せない場合がどういったテイストの作品でどれぐらいの時期にリリースされて、どの部分を担当したのか、などの実績も添えると良いでしょう。この中の、特に制作時期、制作期間、使用ツールはpixivなどのWebサイトには載せていないことが多いです。また、デッサンを掲載していることも希です。pixiv等はあくまで自分の趣味の範囲で自分の好きな絵柄で描いているものが多いので、それとは切り分けて企業は「企業からの依頼でお金をもらって納期通りに仕上げるとしたらどれぐらいのクオリティのものをどのぐらいの速さで出してくれるのか?」をジャッジしたいのです。そのため、「自分の描きたい構図、描きたいキャラだったら早いけどそうでない場合は極端に遅くなったり構図がおかしくなる」ようでは、困ります。あらゆる構図のあらゆるタイプのキャラクターを一定の制作時間を保ってブレなく描ける人が、企業から求められるデザイナーです。そうとは言え、最終的には案件が多様化しすぎていて発注してみないと実際にはわからない部分も多いので、その全ての基礎となるデッサン力も、注目されて生きているという背景があります。
デザイナーがポートフォリオ作成に四苦八苦してる事を人事担当者は知らない
こうした企業側のニーズを知らずに「良い会社だ」と思って応募ボタンを押してみてしまったデザイナーさんにとっては、企業人事担当者から即座に送られてくる「では、ポートフォリオを送ってください」の一文は恐怖でしか有りません。すぐにポートフォリオを送れない理由はいくらでも出てきます。「最新の絵柄じゃない」「どれぐらいの期間で描いてたか覚えてない」「趣味で描いたやつだから一気にじゃなく休み休み描いててトータルだと時間係りすぎてるっぽくなっちゃう」「作例が同人作品ばかりで企業向けっぽくない」「いまデッサンを描けるような設備がない」その結果、デザイナーは考えるのをやめた・・・(Ⓒジョジョの奇妙な冒険)という風になりがちです。もしくは、やる気を出して今から10枚描くぞ−!と思っても、完成までに時間がかかりすぎてしまいます。一方人事担当は2日返事がないと「遅い」と思っています。ビジネスの世界では、即日メールを返すのが基本だからです。そこには、デザイナーがポートフォリオ作りに四苦八苦してるだとか作品の選定をし直しているとかいった事情は全く加味されません。なぜでしょう。それは、企業には掲載期間というリミットがあり、その中で早く選考を進めたい事情がありますし、そんな状況の中で来た応募には藁をもすがる思いで食らいつきたいのです。すぐにでも食らいつきたいごちそうが目の前に現れたにも関わらず、何も動きがない。呼びかけてみるも、反応なし。これではがっかりしてしまいますよね。
企業が求めるのは、反応である
「来た!」と思ったのに無視される。これほど悲しいことはありません。この時点で企業と人材のすれ違いが起こってしまうのです。人材は無視しようと思って無視しているわけではありません。「ポートフォリオどうしよう?」と悩んでいるのです。口には出さないけど、その企業のことめっちゃ考えてるんです。片想い×片想い。全然伝わらないまますれ違い、時間だけ過ぎてお互い「今更連絡とっても、もう無理かも。」と思ってしまいます。何という悲恋でしょうか。これを回避するためには、コミュニケーションを取ることです。既に企業側からはポートフォリオを送ってくれと連絡が来ているのであれば、今そこに遅れるポートフォリオが無かったとしてもまずは「連絡ありがとうございます。」とメールを返しましょう。そして、悩んでいい期間を確保するためにも企業とメールのやり取りをして時間稼ぎをしてください。「どういったテイストの絵柄があるといいですか?」「御社向けに今からポートフォリオを作成しますので、必ず入れて欲しい作例などが有れば教えてください。」など、時間稼ぎでもその企業に興味を持っているかのようにメールを返事するだけでだいぶ印象は変わります。メール本文には「ポートフォリオをください。」と書いてあったとしても、額面通り受け取って無言でポートフォリオを用意し始めるのでは、相手が待てません。まずは、メールにしっかり反応を返すこと。そして、あなたの状況を的確に伝え、面接に進む意思があることを伝えてください。それからどう時間稼ぎしてポートフォリオを用意するかはあなたの交渉力が試される部分ではありますが、無言で10日間過ごすのと、相手企業と相談して10日後にポートフォリオの締切を設定するのとでは全く心証が違います。デザイナーさんにはまじめな人が多いので、ついつい相手の言ったとおり「ポートフォリオと言われたのでポートフォリオ用意」となってしまいますが、まずはちょっと落ち着いて自分の事情は置いておいて、相手から見た自分はどう見えているか?どういう動きを取ったら相手が安心してくれるか考えて行動してみてください。