アカデミー賞とアニメ作品
アカデミー賞のニュースが入る時期になってきました。早速、ジブリ作品「思い出のマーニー」がノミネートした、というニュースが飛び込んでいます。
「思い出のマーニー」アカデミー賞長編アニメ部門にノミネート ジブリ作品が3年連続
これまでもジブリ作品がノミネートしたことはたびたびありましたが、受賞をしているのは2002年の「千と千尋の神隠し」のみです。
また、ノミネートされていないだけで実はほぼ毎年日本からアカデミー賞候補としてアニメ作品は提出されています。少なくとも1本、多ければ3本といった本数が提出されてゆく中、ノミネートまで残る作品すら多くはありません。そもそもアカデミー賞の候補にまで挙がり、そして受賞を手に出来るアニメ作品とはどういったものなのでしょうか。
ジブリは必ずしも絶対ではない
ここに、これまでアカデミー賞の事前選考(ノミネート前段階)に提出された日本アニメ作品及び制作監督のリストがあります。黄色セルはノミネート後アカデミー賞を受賞したもの、薄紅色のセルはノミネートのみ果たしたものです。長編アニメーション賞は2001年から始まっていますが、この時点で既にファイナルファンタジーのフル3Dアニメーション映画が提出されています。
このリストを参照すると2011年以外の年は全てアニメ作品が1作以上ノミネートされています。2011年にジブリから発表された「コクリコ坂から」は2012年にノミネートされ、2010年に公開された「借りぐらしのアリエッティ」はその後米国でも公開されていますが、震災があったことで米国への公開作品が大幅に遅れたり、自粛モードが起きたことが原因かと思われます。
さて、これを見ると必ずしもジブリが毎回強い、というわけではないことがわかります。「崖の上のポニョ」「コクリコ坂」といった作品は提出されたもののノミネートまでこぎ着けていません。そして興味深いのは、米国でも特に人気のある「ポケモン」映画は2003年以降一度もエントリーしていないことです。ポケモン映画はアメリカでも都度公開されており、2009年と2011年に公開されたポケットモンスターはそれぞれ国内映画ヒットランキング2位につけていますが(デジタルコンテンツ白書2015参照)、アカデミー賞にはエントリーすらしていないのです。
米国以外のアニメがノミネートされる時
03年にはフランスのアニメ映画「ベルヴィル・ランデブー」
ここでもう一つリストをご覧頂きましょう。これは2001年に長編アニメーション賞が設けられた時から現在までのノミネート作品および受賞作品一覧です。黄色に塗ってある作品名がその年の受賞作品となります。2001年は全て米国産の作品ですが02年にはご存じ「千と千尋」がノミネート、そして受賞しています。03年にはフランスのアニメ映画「ベルヴィル・ランデブー」がノミネート。惜しくも受賞は逃していますが、これはBGMとしての歌以外にセリフが無い、一種の無声映画でした。歌も特にストーリーの内容に関わるわけではなく、かなり大人向けの作品に仕上がっています。
その後、日本(ジブリ)以外のアニメで米国以外の作品が入ってくるのは2007年「ペルセポリス」。これもフランスの作品で同名のバンド・デシネ(フランス漫画)を原作としています。しかし言語はフランスで綴られるものの、内容は作者のマルジャン・サトラピが少女時代に体験したイラン革命、イラン・イラク戦争と、それに翻弄される彼女自身の人生について描かれたものです。これもエンディングまで見ると考えさせられるような、非常に大人向けの作品となっています。2009年以降はノミネートできる作品数が3から5に増えたことで(2010年のみ3作品)、アイルランドやスペイン、ベルギーといった多彩な国からの作品が選出されるようになります。今回ノミネートしている「父を探して」もブラジルの作品です。(下記画像はアメリカのアカデミー賞特設サイトより「父を探して」の一場面)
こうして2つのリストを見てみると、アカデミー賞への選出に関していくらかの傾向を読み取ることが出来ます。まず日本からの提出作品とエントリー作品を参照するに、どうしてもノミネートに入らないのは「シリーズ作品」ということです。
テレビシリーズからの派生モノはノミネートされない?!
例えば「劇場版 魔法少女まどか☆マギカ [新編] 叛逆の物語」もそうですが、ポケットモンスターという米国でよく知られているコンテンツであれ、TVアニメやゲームからの派生映画はノミネートされない傾向にあります。これは、米国発信の「スポンジ・ボブ/スクエアパンツ ザ・ムービー」(米国2004年公開)や「ザ・シンプソンズ MOVIE」(米国2007年公開)ですらアカデミー賞ノミネート作品に影も見えない、ということからも明らかです。これは憶測ですが、そのためにポケモンは2003年以降のエントリーをしていない可能性も大いにあります。
そして、少なくとも日本に寄りすぎている作品や、日本独自の文化が出ている作品も受け入れられていません。例えば「千年女優」は1人の日本人女優の一生を追う幻想的な作品ですが、背景となる時代について「これはあの時代だ、ここで女優が演じている映画は多分こういう場面だ」と反射的に理解出来るのは日本文化をよくわかっている人間だけになってしまいます。
日本的すぎる舞台、設定はダメ?!
「コクリコ坂から」もそういった理由があるかもしれません。「サマーウォーズ」も日本的な田舎文化、そして日本ならではの「可愛い」アバターなど、海外で受け入れられるかについては少し疑問が残ります。「ペルセポリス」のように世界によく知られている出来事が舞台となっていれば観客の理解度は平等ですが、どうしても文化の違いは理解の違いとなって出て来てしまうようです。「千と千尋」は日本的でありながらも、日本人にすら細かくは説明出来ないほどの綿密な世界観が作られていたことも1つの受賞理由でしょう。
では「ハウルの動く城」「思い出のマーニー」は?となると、この2つはどちらもイギリス文学のベストセラーが原作となっています。そのため米国でも受け入れられやすかったというのが1つの理由となり得ます。ジブリ側の戦略かどうかはわかりませんが、非常に米国受けも考えられたような作品選びとなっています。もちろんアカデミー賞はアニメの題材だけが選考理由ではなく、アニメーションを形作る技術、描写力などが総合的に評価されます。
Anomalisaがノミネート
今回で言えば、「Anomalisa」(左画像・・・アカデミー賞特設サイトより)はクラウドファンディングプロジェクトから始まったストップモーションアニメという点でとても話題になりましたし、同じく「ひつじのショーン」も優秀なストップモーションアニメです。「父を探して」も、実験的な画面演出が数多くされています。「インサイド・ヘッド」と「思い出のマーニー」が内容に重きを置かれてノミネートされているとすれば、かなりバランスの良いノミネート内容でしょう。
よく「アカデミー賞に日本のアニメがノミネートするには、わかりやすく日本テイストがある事が必要だ」といったような憶測がされますが、この「日本テイスト」というのが圧倒的な世界観まで作り出す程なのか、作品の中に全世界普遍的なテーマがあるか、実験的なアニメ演出があるかといった点が重要視されると思われます。(因みに「アカデミー短編アニメ賞」には、これまで日本から山村浩二の「頭山」、森田修平の「九十九」がノミネートされていますが、これは上記の条件を2つ以上クリアしているように思えます。)
九十九はオススメですよ
今回のアカデミー賞、どの作品に軍配が上がってもとても楽しみなのですが、こういった分析をしながら海外のアニメに触れてみるのも、これまでに無い新しい出会いを生んでくれます。受賞した作品だけでなくこれまでノミネートした作品も是非!見てみることをお勧めいたします。