デザインの善し悪しは何によって決められるのか?
こんにちは、ビ・ハイアの床井です。今回は、 デザイナーの人にお奨めの本を紹介します、という記事です。「誰のためのデザイン?」という本で、ドン・ノーマンという人が書いた本です。
「機能美」という言葉があります。辞書通りの意味は、「余分な装飾を廃して、無駄のない形態・構造を追求した結果として得られる自然な美しさのこと」となります。この「機能美」という言葉こそ。この本で言われているデザインの定義にとても近いです。この本の中に繰り返し言われる言葉があります。それは「人間中心のデザイン」という言葉です。どんな美しい装飾も、奇抜な外見も、それが人間にとって様をなさなければ不完全である。人間にとって明確な機能と分かり易さを提供してくれなければ、それは良いデザインとは言えない。
デザインは時に意味性を持つアイコンとなる
この本の中に、難しい言葉が2つ登場してきます。Affordance(アフォーダンス)という言葉と、Signifire(シグニファイア)という言葉です。Affordanceは、デザインが人間に与える意味やメッセージの事を指す言葉です。例えばコップがあった時に、コップの取っ手がついていたら、その取っ手が私達に与えるアフォーダンスは「ここを掴んで飲んで下さい」というものです。例えば非常口階段の緑の表示が張りつけられていたら、その表示が私達に投げかけるアフォーダンスは「災害の時にはここから逃げてください」です。もう一つの言葉Siginifireは、人にアフォーダンスを伝える、物の特徴の事を指します。コップで言えば取っ手の形がそれに当たりますし、非常階段表示であれば「非常階段」という文字と人間のマークが私達に避難経路を教えてくれるシグニファイア、という事になります。
すこし話が抽象的になってしまいました。しかしこの本が面白くそして画期的なのは、デザインをこうした2つの要素に分解した点だと私は思います。たとえば、この考え方に従えばこんな事も考えられます。
思わず手を突っ込みたくなってしまいます
これは有名な、ローマの休日に登場してくる「真実の口」という彫刻です。この彫刻は、映画を観たことのある人かどうかでまるきり反応が変わってくるはずです。おそらく、映画を観たことがなければ、この彫刻が何を意味しているのか分からないでしょう。しかし映画を観たことがある人はこの彫刻を見てついつい手を突っ込んで映画のワンシーンを再現しようとするのではないでしょうか。後者の場合にはこの彫刻の穴(シグニファイア)は、「手を突っ込んでローマの休日」を再現する場所というアフォーダンスを私達に投げかけるデザインであるということになります。つまり何がデザインなのか、と言う事は、それを利用する人間の過去の体験、経験、考え方などに依存するのです。受け手にとって有用なデザインこそが優れたデザインだ、この本はそう主張します。
いつの時代にも革新を起こすデザインを
「人間中心設計」というノーマンの思想は、デザイナーに大きな気づきを与えてくれます。良いデザインの定義を人間が決めるのであれば、人間が生きる時代が変われば、良いデザインの定義も変わってしまうのです。例えば、ノーマンはこの書籍の出版にあたり、電子書籍版の刊行をも試みました。電子書籍版には、ページの途中でノーマンのアイコンが飛び出してきて解説を加えるなど、種々のしかけが施してあります。電子書籍と通常の書籍では、書いてある内容が同じであっても、デザインは全くことなり、それが投げかける私達への意味(アフォーダンス)も異なるのです。つまり両者は全く違った作品なのだ、とさえ言えます。
弊社のお客さんに、「株式会社フーモア」という会社があります。この会社では、従来の漫画像を覆す革新的な試みをいくつも試みています。例えば、ゲームやアプリの宣伝のため、漫画を応用するという試みをしています。
時代に添ったリデザインへの挑戦
現在紙の漫画の出版総数は下がってきていますが、代わりに電子書籍での漫画の出版数は高まってきています。既存の単行本だと視線を右から左へと移していくのが一般的ですが、スマートフォンやIpadなどのタブレットを使用し漫画を読む際には上から下へと視線を落としていくことが普通です。フーモアはそんな時代に対応して「縦読み漫画」という新機軸を打ち出しています。このフーモアの例のように、古いコンテンツが時代の中で形を変えて再生産され、今の消費者に合う形でデザインをされ直す、という例は増えてきています。「デザインは人間中心」の原則に従うなら、時代に合わないフォーマットを採用している作品は淘汰されていくでしょう。いいコンテンツが受け継がれ受容されていくためにも、コンテンツの内容と受け手とのギャップを上手く翻訳して伝えるデザイナーの役割は大きくなってきていると思います。実際最近ソシャゲの世界でも 優秀UIデザイナーに対する人材のニーズは高まってきており、ただコーディングができるだけ、ではない付加価値を出せる人材は良い待遇を受けることができます。そんなデザイナーになりた、そう思ったなら、この本はオススメです。
「誰のためのデザイン?」ドン・ノーマン
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