ゲームと宗教 世界最強のコンテンツ、キリスト教、仏教、イスラム教から学ぶゲーム開発

shutterstock_181638728ゲームと宗教について

今回はゲーム業界で働きたい人に向けて一風変わったアドバイスをしたいと思います。それは宗教を知ろうということです。宗教と聞くと、「宗教なんて胡散臭い。私は無神教だし、日本は無神教の国だから関係ない。」と考えるかもしれませんが、まぁちょっと話を聞いて下さい。宗教から学べることは思いの外たくさんあります。

まずそもそも宗教ってなんだと思いますか。その答え方は様々あると思いますが、最も不遜かつ資本主義的な答え方をするならば、「最強のコンテンツ」です。米調査機関ピュー・リサーチ・センターによると、2010年のキリスト教徒は約21億7千万人、イスラム教徒は約16億人で、それぞれ世界人口の31.4%と23.2%を占めており、2050年になるとイスラム教徒は27億6千万人(29.7%)となり、キリスト教徒の29億2千万人(31.4%)になると算定されています。

419hA7DNUFL世界中にこれだけの人に共有されている思想は他にありません。

世界で最も売れている本も聖書です。聖書の全世界での発行部数は50億部〜約3880億冊などの説があるそうです。聖書強化によると2000年の1年間に世界中の聖書協会によって約6億3300万冊が配布・販売(国際聖書協会の発表)されたそうです。更に世界一発行されている本としてギネス・ワールド・レコーズに登録されています。日本では1874年~2004年に3億4584万1334冊が頒布(日本聖書協会調べ)だそうです。

そして宗教は、ゲームを作る上でも活用することができます。例えば「スライム」と聞けば、すぐにあの丸い目とニカッとした口元が頭に浮かぶと思います。では、「ベヒーモス」「リヴァイアサン」「バハムート」「アーリマン」などはどうでしょうか。人によって違いはあれど、だいたいあんな感じというイメージがわくと思います。しかし、これらも元は全て宗教や神話に由来する存在です。存在という言い方が仰々しければキャラクターと言ってもいいでしょう。

shutterstock_160788875現にこれらのキーワードで検索すると、古典で使われる挿絵のような画像は一切出て来ないで現代的なモンスターやモンスターを元に擬人化したキャラクターのイラストがたくさん出てきます。「パスドラ」「モンスト」などのゲームにも登場しています。モチーフがある分キャラクターも起こしやすいですし、ユーザーの中にもイメージがあるのでキャラクターに対しても納得してもらいやすいというメリットがあります。

さらにこれらのモチーフには、必ず伝承があります。伝承という言葉が仰々しければ、エピソードやバックグラウンドと言ってもいいでしょう。このモチーフがもたらす物語的なイメージも非常に役に立ちます。例えば、古くは17世紀にこの手法で大ヒットを獲得した本があります。それがトマス・ホッブズが書いた「リヴァイアサン」という本です。私が高校生のときに初めてこの本の存在を知ったときには「なんでゲームのキャラクターの名前が古典の題名になっているんだ?」と不思議に思ったものです。ホッブズのリヴァイアサンは、元々旧約聖書に登場した海の怪物のイメージと政府という巨大な集合体のイメージをつなげるキーワードとしてリヴァイアサンという言葉を使っています。一つの言葉を使うだけで、そのキャラクターの立ち位置や物語上の役割を提示することができます。

shutterstock_114874192ただし、宗教をゲームで利用するためにはしっかりとした知識が必要です。生半可な知識で姿かたちだけ真似ると反感を買うこともあります。例えば、NINTENDO64で発売された「ゼルダの伝説 時のオカリナ」では、イスラム教の聖典コーランの録音がBGMに使われたということで、ニンテンドー3DSで発売されたリメイク版ではBGMが差し替えられています。既存コンテンツにはファンがいて、ファンの期待を裏切ると痛い目を見るのは何も最近の話だけではありません。宗教をめぐってはこれまでも何度も戦争が繰り広げられており、一歩取り扱いを間違えるととんでもないしっぺ返しを食らうかもしれません。

さらに、宗教には偶像崇拝の禁止が叫ばれているところも多くあります。偶像とはつまり人間の側から形を与えることです。それをやってしまうと権威が薄れて拡大して手がつけられなくなってしまいます。現に手のつけられなくなったキャラクターという名の偶像はゲームの世界の中で存分に猛威を振るっています。そして宗教としての権威は失われ、イメージが一人歩きするキャラクターへと姿を変えました。

shutterstock_94836646宗教は今でもゲームを始めとした様々な場面にあって人々の暮らしと同化しています。クリスマスも結構式も正月も日曜の休暇も全て宗教です。何かしらの宗教を信じなければならないというわけではありませんが、宗教を理解することはゲームを作ること、暮らしをよりよくすることのヒントにもなります。宗教とは何か、どんな宗教があるのか、宗教がなぜそれほどまでに人々を魅了するのか。一度考えてみると面白いのではないでしょうか。