記事を読んで下さってありがとうございます。ビハイアの床井です。弊社はアニメゲームマンガ業界の発展のため日頃より仕事をしております。今回の記事は「クールジャパン」について取り上げたいと思います。「クールジャパン」耳あたりは非常にカッコいいですが、そもそも何をする政策なのでしょうか?アニメゲームマンガ業界の開発・制作会社、それからクリエイター達に一体どんな影響があるというのでしょうか?
「クールジャパン」は、経済産業省が主導している政策です。「クールジャパン政策について」というPDF文書を経済産業省のホームページで見てみましょう。
この文書を読むと「クールジャパンのねらい」という項目には、要約すると次のように書いてあります。
内需減少などの厳しい経済環境に対応するために、自動車や電子機器などの第二次産業だけではなく、日本のアニメやマンガといったコンテンツ、日本人のライフスタイルまで含めた、広い意味でのソフトウェアの魅力を海外に発信し、海外市場に新しい需要を創出し、日本企業の進出や雇用の促進を図る。具体的な施策としては、第一に日本のコンテンツを海外発信するために海外向けのローカライズ支援などをして、情報発信量を増やす。第二に、海外における会社設立や現地企業とのマッチングなどについて、政府が支援をする。第三に、海外からの観光客増に対応し、国内の観光業を振興し、さらなる需要増を目指す。
「クールジャパン」という政策のコンセプト自体は、「クールブリタニカ」という1990年代のイギリスの政策を借用したものです。1990年代のイギリスでは長年に渡る経済停滞から脱出し、経済が好況に向かいつつありました。そんな中当時のブレア首相が、経済の転換とともに国家イメージもガラッと変えようという事でクリエイティブ産業の振興を打ち出しました。
「クールジャパン」政策の主眼は経済成長に置かれていますが、日本のクリエイティブ産業はどのくらいの規模があり、経済全体にはどのくらいの影響が見込めるのでしょうか。幾つかデータを見てみましょう。
このデータは「コンテンツ産業の現状と今後の発展の方向性」という経済産業省が作成したレポートから引用しています。この表を見ると日本のアニメ業界は144億円規模、ゲーム業界は約1兆0,546億円規模です。日本のGDPは約490兆円ですから、両方の産業を合わせても対GDP比ではごくわずかな市場規模しかありません。また、日本のGDPはそもそも8割以上が内需(日本国内で物を買ったり売ったりしている部分。輸出入によらないGDP)であることを考えると、「クールジャパン政策」による経済効果というのは、数字上はあまり見込めないのではないでしょうか。経済産業省のねらいが当たるかどうかは、短いタイムスパンでは見えてこないかもしれません。
しかし、「クールジャパン」はもともと、「イメージ戦略」という側面を含んでいるはずです。「クールジャパン」の元ネタとなった「クールブリタニカ」でも、当初の目的は主に経済的なものでした。しかし、政府主導で広まった「クールブリタニア」というワードは、カラフルで若さ溢れるイギリスの若者文化を象徴する言葉へと一般化していきました。私自身1990年代のUKロックが好きで、愛聴していますが、確かにこの時代のアーティストはOASISなど、「クール」と呼ぶにふさわしい洗練された雰囲気のアーティストばかりです。
今やイギリスに対して「進歩がない、退廃的、停滞感」というようなイメージをもつ日本人は少ないでしょう。イギリスのイメージ変更戦略は成功したのではないでしょうか。では、日本人の国際的なイメージとはなんでしょうか?外国に対するイメージについて電通が行った「海外16地域で『ジャパン・ブランド』に関する調査」です。
この調査結果によると。「日本について興味関心のあるものは?」という項目については、「日本食」「温泉」「旅行」が上位になっており「アニメ、ゲーム、コスプレ」などの項目については軒並み下位にランクしています。また、今の所、アニメやゲームが認知され、日本のイメージが変わるまでには距離があると言えそうです。また、日本人についての印象調査においては「真面目だ」「勤勉だ」「気さくだ」が上位に来ています。日本人のマスイメージはやはりまだまだ堅苦しく、60年代や70年代に作られた経済大国のイメージが強いのかもしれませんね。イギリスのように旧態的なイメージを脱出し、新しいイメージを獲得できるのかは、これからの私たちにかかっているでしょう。