未来へのあこがれ
過去にとらわれている人は自分の失敗や成功の体験に一喜一憂し、現在にとらわれている人は現状維持を続けてしまいます。過去や現在にとらわれすぎていると、人間は停滞してしまうのです。人類が進歩してきたのはなぜでしょうか。それは他の生物とは違い、未来を想像する力があるからです。近代における科学的空想は常に人類が進歩するエネルギーとなってきました。19世紀の小説家、ジュールヴェルヌやハーバード・ジョージ・ウェルズはSFの父と呼ばれています。海底2や月世界、八十日間世界一周など様々な世界への冒険へいざなったのはジュールヴェルヌであり、タイムマシン、透明人間、知性をもった動物やテロの道具としての細菌、合成食品や反重力などはウェルズの作品から生まれたSF的題材です。彼らの小説は子ども向けと揶揄される時代もありましたが、彼らの作品に登場した技術はのちに実現するものも多く、再評価されるに至っています。
1980年代SFのサブジャンル
(画像はAmazonより)
ウェルズやヴェルヌによって築かれたSFの基盤を多くの作家たちが拡張してゆきます。エドガー・ライス・バローズの火星シーリズに代表されるヒロイック・ファンタジーや、1920年代から流行するスペース・オペラなど、宇宙を舞台にした冒険、アクション活劇が次々と生み出されてゆきました。現在のSF映画に通ずる宇宙戦争などのアイディアはこの頃生まれました。科学的知見がふんだんに用いられたハードSF(アイザック・アシモフなど)や科学に対する懐疑的な視点を中心に描かれるニュー・ウェーヴSF(フィリップ・K・ディックなど)など、時代とともにSFで描かれる作風が変わってゆきます。サイバーパンクは1980年代に流行したSFのサブジャンルです。代表的なSF作家にウィリアム・ギブスンやブルース・スターリングなどがいます。コンピューターテクノロジーが過剰に発達し、人間の生活が大きく変化した未来を描いており、なおかつ、カウンターカルチャー的な権力に対する反発、問題視が作品の中で描かれ気味です。サイバーパンクは今までのSFに対する反発という意味合いでも使われている言葉で、広義の意味合いでのSFの場合はそうしたムーブメントも含めて「サイバーパンク」ということもあります。
大規模なネットワークに取り込まれたディストピア
(画像はAmazonより)
典型的なサイバーパンクの世界観は、過剰な科学技術の発達によって、人類が大規模なネットワークによってつながっており、個人や集団がそのような大きなシステムの中に組み込まれ、徹底的に管理されているという舞台において、主人公がその構造や体制に対して反発していくという作品内容が多いです。フィリップ・K・ディックの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』は年代的には違いますが、サイバーパンクの原始的な作品として知られています。年代ドンピシャで有名なのはウィリアム・ギブスンの「ニューロマンサー」です。
サイバー技術と超巨大電脳ネットワークが全世界を多い、財閥とヤクザが経済を牛耳っているという未来の話で、「マトリックス」という電脳空間に意識ごとジャックインしてあらゆる機密情報を盗む「カウボーイ」であり、伝説的なハッカーであるディクシーの弟子であるケイスというチンピラが主人公。ケイスは脳神経を焼かれてジャック・インができなくなってから、電脳都市「千葉シティ」でチンピラぐらしをしているというもの。大まかなあらすじを書きましたが、サイバーパンクの代表格であるマトリックスや攻殻機動隊など、サイバーパンクとして知られているあらゆるコンテンツの雛形とされている作品です。
科学に対する懐疑の目
ハードSFやニューウェイブの流れをくんだサイバーパンクは、科学技術に対する懐疑的な視点を持って描かれているものが大半です。ニューロマンサーの舞台である「千葉シティ」はまさしく日本の千葉市のことで、臓器移植、神経接合や違法な闇クリニック、違法なサイバネティック技術や怪しい外国人が大量にいるアンダーグラウンドな街として描かれています。技術が発達してもそれを利用して違法な行為を働く人間や、科学技術を利用して成功している人との対比として主人公が描かれていたり、多様な文化が入り混じり、西洋とアジアの文化がごちゃ混ぜになったような「ダークな未来」が描かれているのがサイバーパンクの魅力です。2001年宇宙の旅などに代表されるクリーンな未来のイメージとは違うカオスな美しさ、未来世界の小道具、ガジェットなどのマニアックな要素がからみ合って、カルト色の強いSFに更にカルトチックなイメージを植えつけた作品でもあります。しかし最近ではPSYCHO-PASSやニンジャスレイヤーなどの映像作品や、RUINERなどのサイバーパンク的世界観のゲームが注目されてきています。もしこれらの作品が面白いと感じるのであれば、ぜひともニューロマンサーなどのウィリアム・ギブスン作品や、ブレードランナーの原作「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」などを読んでみてください。当時の人の壮絶なる想像力と未来に対する思いを同時に感じることは、クリエイターの皆さんの感性に良い影響を与えてくれると信じています。
マニアックな内容でしたが、最後まで読んでくださいありがとうございました!