アニメ業界の人からよく聞く話として、「アニメのことをよくわかっていないで応募してくる人が多すぎる」という話を聞きます。アニメはどういう制作過程で作られているのか、どんな労働環境なのかということは入る前に知っておく必要があります。少なくとも、採用する側はその部分がしっかりわかっている人を採用したいと思っています。しかし、働いてみないとわからない部分ももちろんあります。今業界で働いている人たちも、働き始める前からアニメ業界のことを全て知っていたわけではないでしょう。なので、今回は、「制作進行」をアニメ業界で働いたことがない人でもできるだけわかるように説明したいと思います。
「制作進行とはどういう仕事か説明してください」
と言われて、すぐに答えられる人は多くないと思います。「キルラキル」「リトルウィッチアカデミア」などのアニメを製作した株式会社トリガーの取締役 舛本和也さんも「アニメを仕事に!トリガー流アニメ制作進行読本」という本を1冊丸々書いているほどに制作進行とは奥が深い仕事です。制作進行だから「制作を進行する仕事」なのだろうというイメージでしょうか。では、制作を進行するとはどういうことでしょうか。
アニメ制作は分業で制作されています。監督、脚本、演出、キャラクターデザイン、作画監督、原画、動画、美術、仕上げ、撮影、声優など様々な役割の人たちが制作に関わっています。30分アニメ(実質21分)を制作するのに、約1500~2500万円、3か月(それより短い場合も多々あります)、100人以上の人手がかけられます。一度でもアニメ業界で働いたことのある方であれば、制作進行がどれほど重要か、優秀な制作があるだけでどれだけ進行が安定するか、アニメが良いものになるかということは実感としてわかるかと思います。
制作進行という奇妙な仕事が生まれた理由
制作進行は確かにアニメ制作に不可欠です。しかし、アニメを直接手を動かして作るわけではない制作進行という仕事をいささか不思議に思ったことがある方はいませんか。おそらくこの制作進行という特殊な仕事が業界で働いたことのない人にとって制作進行という仕事がどういうものなのかわからなくなってしまう原因にもなっているのではないでしょうか。
今の30分テレビアニメ制作は、手塚治虫の「鉄腕アトム」から始まっているということは知っていると思います。昔は、アニメと言えば、ディズニー作品に代表されるフルアニメーションが主流でしたが、手塚治虫の発明したリミテッドアニメーションという技法が、なんとか毎週30分のアニメ制作を可能にするだけの制作体制を作り出しました。もちろん当時は制作進行という役割もなかったですし、監督、脚本、演出、キャラクターデザイン、作画監督、原画、動画、美術、仕上げ、撮影、声優などの役割分担もされていなかったでしょう。何枚も絵を描いて、それを連続で見せるというアニメーションの原理原則に従ってのみ制作されていたはずです。
アニメ制作の分業化から生み出された制作進行という仕事
鉄腕アトムと手塚治虫と虫プロは大成功をおさめました。結果いくつもの集団が真似し始めて、アニメ業界の原型ができあがりました。しかし、そこで問題になったのが、アニメ制作環境です。今でこそ分業化され、役割分担がはっきりしており、どうすればアニメを作ることができるのかという方法論はわかっていますが、当時の人たちはアニメ制作を体系化、方法論化するところから全てをスタートさせる必要がありました。監督、脚本、演出、キャラクターデザイン、作画監督、原画、動画、美術、仕上げ、撮影、声優と様々な役割も生まれ、その過程で全ての進行を管理統括する専門の人制作進行という役割も生まれました。
そして制作進行とは、元々分かれていなかった作業を制作の都合上分けてしまったがために必然的に必要になってしまった仕事ということです。虫プロ時代は社内の数名と社外の数名とをまとめればよかったので、誰かおせっかいな人がついでに頑張ればよかったですが、100名のスケジュールをまとめ上げることはとても「ついでにできる仕事」ではなくなってしまいました。だから制作進行に必要なことは原理から言えば、アニメ制作に関わる全ての人が分業の弊害を感じることなく気持ちよく働けるよう、全ての制作の間に入って全ての制作をつなげることになります。
どんなアニメを作りたいか、そのとき何をしているか想像できますか?
しかし、アニメを気持ちよく作れる環境とアニメを楽に作れる環境は違います。確かにアニメ業界黎明期は今とは比べ物にならないほどの激務と薄給でとても人がする仕事ではないと言われてたのだと思います。それに比べれば、日本人の平均に比べれれば低いなりにも最低限暮らせるだけのお金は払われますし、環境面も中にはアニメ会社を超えるブラックな環境の会社もあるでしょう。順調にキャリアを積むことができれば給料も増えますし、自由な時間も増えます。しかし、例えば最近増えている5分アニメや10分アニメなどのアニメが果たしてガンダムを超えるアニメになるでしょうか。
ガンダムは超えないまでも、そのアニメを作っている一人一人の制作関係者の中にある「最高のアニメ」を超えるという気概で作られているのでしょうか。もちろんそれに挑戦できる環境自体がごく限られてしまっているということなのだと思います。しかし、アニメ制作を仕事にするのであれば、アニメ業界の発展という意味でも、「最高のアニメ」を超えるアニメを作り上げる瞬間のために働くということについても考えてほしいと思います。
特にアニメ業界にこれから入っていく人にとっては、アニメが好きという気持ちが先行している人が多いと思います。アニメ業界で働く前にぜひ自分の中にある「最高のアニメ」を超えるアニメ作っている自分を想像してみてください。おそらく具体的な想像は何一つできないでしょう。しかし、アニメ業界で働くからにはそこを目指してほしいと思います。将来この記事を見て、ラクジョブからアニメ業界に入った人が「アニメ業界に入ってよかった」と思える瞬間に巡り合えたのであれば嬉しい限りです。ぜひこの記事を読んでいただいた上でアニメ会社1社1社を見て回ってみてください。