電子コミックスの市場が拡大する中、漫画家として抑えておきたいことお金の流れの話

shutterstock_193801217減少し続ける紙媒体の書籍市場

ゲーム業界が家庭用ゲームからタブレットやスマートフォンを使ったオンラインゲームへと主流が移り変わっていく中、漫画業界も本からkindleといったタブレットへ移行する傾向があります。では、kindleが先に普及したアメリカの現状と日本の現状電子コミックスが広がりを見せる今の漫画家として知っておきたい市場や印税について書きたいと思います。

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出展 出版状況クロニクル83(2015年3月1日~3月31日)をもとに榊原大貴が作成
配信元 https://d.hatena.ne.jp/OdaMitsuo/20150401/1427814003

電子書籍コミックスは・・・

このデータから見てのコミック誌は18年連続の下落、コミック誌とコミックス合わせた販売金額でも13年連続の下落と規模の縮小はどんどん続いています。一方で電子書籍の市場は、上昇傾向にあります。

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『電子書籍ビジネス調査報告書2015』および『出版月報2月号』より、試算して作表
配信元 https://tkw-tk.hatenablog.jp/entry/2015/07/17/024140

コミック誌の低迷、コミックスの停滞、電子書籍の増加から考えるにやはり、持ち運びの利便性に影響しているという印象を持ちます。B5サイズで何百ページもあるコミック誌、小さいながらも何冊も持てないコミックス、タブレットやスマートフォン1つあればいくらでも閲覧可能な電子書籍の方に需要があると言えるかもしれません。しかも伸び盛りの電子書籍市場のうち8割がコミックスになります。その中でも、「amazon/kindle」、「ebookjapan」、「LINEマンガ」、「honto」、「めちゃコミック」などを中心として漫画の単行本が電子コミックスの売上の中心となっています。そんな日本の電子書籍の現状ですが、電子書籍化のきっかけとなったkindleを開発したアメリカではどうなのでしょうか。

アメリカで電子書籍の売上が大失速!やっぱり本で読む?

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昨年の9月の記事になります。2008年から2010年にかけて、アメリカの電子書籍市場は1260%の急激な増加によってkindleで買う本を調べるために本屋に行くという現象が起こるまでになりました。しかしながら、その成長は急激に鈍化し、2015年には、紙とデジタルが逆転する世界が来ると考えられていましたが、実際はシェア20%で止まっているそうです。そうなったのはなぜかというと、2014年に有力出版社とAmazonの方で契約の変更が行われ、出版社サイドがkindle版の書籍の価格設定できるようにしたということでした。https://goodereader.com/blog/e-book-news/publishers-initiate-predatory-pricing-on-e-books-to-destroy-the-market

このため、電子書籍と紙媒体で大して価格差がなくなってしまいましたし、以前のようにセールをすることもできなくなりました。以上のホームページには、価格帯の例が載っていますが、kindle版が10.99ドル、ハードカバーが10.79ドル、配送料があって同じくらいになるという価格帯になっています。そのようなこともあり、デジタルを多く使う傾向のある若者ですら、紙媒体に戻ったり、デジタルと本を読み分けるという人もいるという状況になっています。

日本の価格帯は・・・?

日本のコミックスは、出版社側が価格設定している場合があるものの、kindle版の方がまだ、1割から5割程度安く販売されています。その分、売上も好調のようです。

では、漫画家から見たらどうでしょうか。漫画家と出版社の契約条件にもよりますが、主な収入源は印税になります。基本的に印税はだいたい数%から10数%ほどになります。そして、本と電子書籍との最大の違いは、本の場合は、発行した本の冊数、電子書籍はダウンロードされた冊数になります。本の場合だと売るためにある程度最初に発行する必要があります。そのために、だいたいどれくらい売れるかの予測を立てて、最低でも数千冊は刷ります。ここで大きく2通りの契約があります。

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参考 https://nishizawashoten.com/4978.html

引用始め
刷り部数契約 — 刷った部数(発行した部数)だけ印税が支払われる契約。売れなくても刷った部数だけは保証されるので著者に有利と言える。
実売契約 — 実際に売れた部数を一定期間(3ヶ月、6ヶ月、1年)で集計して印税を支払う契約。著者は売れた分しか印税収入を得られない。
※初版保証 — 実売契約と併用され、実売だけだと著者がかわいそうなので、初版発行時については一定部数(初版の40%から70%)の印税を支払うというオプション。
引用終わり

shutterstock_339061784売れない書籍は契約ごと破り捨てたい出版社

契約内容は著者には選ぶ権利はないものの、どちらの場合も初版分の印税が入るので、ある程度の収入は見込めます。出版社側も最初にある程度のリスクを負うからこそ売れそうな漫画家に絞って雑誌に掲載し、より良い作品にしようと編集者もあれこれ苦心しているのです。

一方、電子書籍はダウンロード数なので、ダウンロードされなければ印税は入りません。漫画家にとって電子書籍の出版は、本の出版よりもリスクが大きいものとなってしまいます。加えて、紙や印刷代分のコストを抑えて売ってしまったら、さらに漫画家への収入は少なくなってしまいます。ただ、出版社にとっては、漫画のデータを管理できるサーバーさへあれば運営ができるのですから、雑誌や単行本を出すたびにかかる用紙代や印刷代、製本代がかからない分、手広くやることができます。そのことを思えば、漫画家志望の方であったり、あと一歩のところで掲載までできず、チャンスがつかめなかった人にとっては一般に認められるチャンスが増えるので嬉しいことではないでしょうか。

shutterstock_207415741まだまだ増加する電子コミックス

電子コミックスの市場は、今の価格帯設定から見ても今後も成長分野になるでしょう。そして、タブレットやスマートフォンを基軸とした外でも見ることができる漫画、特にアプリを使った漫画は、従来の雑誌の連載枠という制限がない分野のため、一定以上のスキルに到達すれば連載もできるチャンスが増えています。今後はそういったチャンスをつかんでアプリ内で連載して原稿料や印税を受け取るケースが増えてくると思います。その際の、本による出版との仕組みは抑えておいた方が良いと思います。