BLに関するマス・メディア放送
4月21日の「お願い!ランキング 生放送」でBLの特集が放送され、Twitterではこの番組に関するツイートがトレンド入りしています。テレビでの腐女子を取り上げた放送がされると、度々ネット上ではその内容に対する侃々諤々の議論が繰り広げられます。
よく問題点として取り上げられるのは、『BLを楽しむ「腐女子」の方々がどのように取り上げられ、どのように放送されているのか』ということです。テレビに限らずマス・メディアは影響力が大きく、世論を左右する力は未だにあります。現在テレビの視聴年齢層を見てみると、若者が少なく高齢者の視聴者が多いですし、また新聞の購読者平均年齢もテレビと同様40歳以上が多く読んでおり、企業幹部や官僚関係者などに対して、BLコンテンツへの偏見を助長しかねないのではという声もあがっています。
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腐女子の歴史を再確認してみる
「腐女子」というキーワードがどこから発生したのかということは諸説あります。ジェンダー問題に取り組む社会学者の上野千鶴子さんがユリイカに寄稿した「腐女子とはだれか?サブカルのジェンダー分析のための覚え書き」によると、2000年ごろからインターネット掲示板2ちゃんねるを中心に発生したとされています。腐女子がマスメディアに取り上げられるようになったのは、そもそも「オタク」というイメージを世に広めた「電車男」がメディアミックス展開されはじめた頃です。女性のオタクに対するメディアの注目があり、「ココリコミラクルタイプ」などのコント番組などでは腐女子をキャッチーに取り扱った「腐女子のふーちゃん」などのコント作品が放送されるなど、腐女子の存在が良くも悪くも広まり始めたのです。
腐女子の特徴
腐女子がこのようにマスメディアに取り上げられることに対して、腐女子の方々はどのように思っているのでしょうか。一般的に腐女子はボーイズラブ、やおいと称される趣味を堂々と話すことはよろしくない、はしたないと思っている傾向が強く、伊藤剛さんの『男性のための<試験に出る>やおい講座』によれば、自信が腐女子出ることを隠す傾向は地方であればあるほど高いのです。記事を読んでいる方々の中にも腐女子の方はいらっしゃると思います。オープンに自分の趣味を語ることの何が悪いのだ!と思われる方もいるかもしれませんが、腐女子の慣例としては趣味の公開を控える傾向にあるそうです。今回記事冒頭で取り上げた「お願い!ランキング」のBL特集に対するTwitterの反応も様々ですが、「エロと絡めた報道をされると困る」「ひっそりとしておくべきである」という意見は多く見られます。しかしこれらに対する反対意見も多く「ひっそりとして欲しいならTwitterのアカウントにもロックをかけろ」「電車内でやおいの話をしている人もいるではないか」という腐女子の慣例と行動に対する矛盾を指摘する声も上がっています。
LGBTの観点から腐女子の特性を考える
やおい、ボーイズラブを趣味に持つ人たちは、なぜひっそりと楽しむということをしなければならないのでしょうか。ここを考えるとLGBT、つまりジェンダーに対する認識の問題に発展していきます。LGBTとはレズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの頭文字をとった総称です。つい40〜50年前まで、同性愛者は猛烈な差別に晒されていましたが、海外特にアメリカではハーヴェイ・ミルクなどの政治家、活動家を筆頭に70年代から盛んにゲイに対する差別問題を解消しようとする動きが見られました。日本では渋谷区が結婚と同等の扱いを受けられるパートナーズシップ条例を施行するなどしたLGBTに対する制度面からの配慮などが見られますが、国民全体の同性愛に対する認識は、特にゲイ文化においては大きな偏見が未だに存在していると言わざるを得ません。2004年〜2008年ごろからネット上で話題になったゲイポルノビデオがインターネット掲示板で面白おかしくネタにされ、現在でもニコニコ動画などではユーザーによるネタが量産され続けています。これらゲイに対する偏見を助長するような内容のコンテンツが流行しているのは、同性愛に対して滑稽なもの、からかっても良いものという認識が日本にまだあるからなのではないでしょうか。そうしたネガティブな要因が、腐女子が趣味を隠す要因の一つであると考えることができます。
安易な報道は慎むべき
同性愛に対する偏見が蔓延しているなかでBL特集を組み、それを放送するとどのような影響を腐女子の方々に与えるのかということを、もう少しマス・メディアの方々は認識しなければならないでしょう。この問題を無くすには、根本的に人間の性に対する認識を変えなければなりません。日本国憲法は平等権を保障しています。あらゆる差別を禁止しているにもかかわらず、東京都渋谷区、沖縄県那覇市、三重県伊賀氏以外の自治体でパートナー条例を施行しているところはありません。そもそもパートナーシップ条例は「結婚相当」であり厳密には結婚として認められているわけではありません。最近の結婚をめぐる制度面での動きでは、男女の結婚可能年齢を18歳に引き上げるべきという提言が昨年まとめられましたが、同性婚に関する提言が政府機関に対して提言されたというニュースは報道されていません。このような同性愛が偏見として残る状況においては、コンテンツとしてボーイズラブ作品の宣伝や周知活動をする場合、他の恋愛漫画や恋愛作品と同じように、ファン層の活動などではなく、作品自体のセールスポイントを広報情報として出していけるようにしていく必要があります。ネット上でブライタル業界では同性の結婚式を行えるサービスがあります。意外と知られていないかもしれませんが、ディズニーリゾートも2012年から同性での結婚式を挙げられるサービスを始めています。同性愛に対する偏見を打ち消すような報道内容とはどういうことなのかを、メディア各社が熟考した上で報道することが求められます。安易な報道は差別や偏見を助長する原因になり兼ねないのです。
もちろん、「ボーイズラブは同性愛が認められるまでおとなしくしていろ」ということを言いたいのではありません。むしろ「私は作品としてこのようなジャンルが好きだ」ということを堂々と言えない風潮はおかしいということを疑問に思わなければならないのではないでしょうか。過激な性描写や残虐な表現などが含まれる作品やその内容を大きな声でいうことは問題があるかもしれませんし、そうしたことで最悪の場合は芸術としての「エロ」や「グロ」だって規制されかねないのです。同性愛が偏見の対象になっている現在は、大きな声を上げる準備段階が整っていない状況です。「同級生」のヒットによって、BLをビジネスコンテンツとしての発展することに注目を寄せている出版社も多いはずです。今後、コンテンツとして発展していくには、アニメゲームマンガ業界の側から「同性愛観」を少しずつ変えていく必要があるでしょう。
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ちなみに現在「同級生」の興行収入は2億円を突破しています。注目されるBLコンテンツなだけに、それを取り巻く性への認識についてさらに考えていく必要があると考えます。
記事を読んでいただきありがとうございました!