アニメと遊技機(パチンコ・パチスロ)が切って離せない関係にあることは業界関係者であれば百も承知の事です。2014年のアニメ産業市場1兆6,296億円(アニメ産業レポート2015)に比べて、遊技機業界の市場規模は、24兆5,040億円(公益財団法人 日本生産性本部)。およそ15倍の差があります。パチンコ・パチスロの液晶に流れるリーチ演出、大当たり映像のアニメはどこで作られているのか?2Dセルアニメはもちろんアニメ制作会社が作っています。餅は餅屋。作画はアニメ制作会社です。最近は3Dも多用されるようになっていますが、その場合もアニメ制作会社がCG映像制作会社に変わっただけです。根本は変わりません。
しかし、遊技機業界には「規制」という大きな問題があります。内規などと呼ばれたりもします。ギャンブルに位置付けられる遊技機は、そのギャンブル性、射幸性ゆえに、様々な協会を持ち、政府や警察とも折り合いをつけながら、「自主規制」という形で機種のレギュレーションを決めています。日本を代表する自動車産業が市場規模60兆3,720億円(業界動向.com)であることを考えれば、24.5兆円の遊技機業界に対して上からの目が厳しくなることも想像に難くありません。
「規制」とは、遊技機の遊技機たるギャンブル性への介入なので、業界全体が煽りを食らいます。TPPが日本経済全体に影響を及ぼすのと同じですね。パチンコ・パチスロは一つのプロジェクトが企画からホールで稼働開始するまで約2年かかります。ところが、その2年の間に規制が入ると全ての開発をストップして、台のスペックは基準から見て問題ないのか、問題がある場合は軌道修正が可能なのかが検討されます。「台として世に出しえない、出したとしても工数がかかりすぎる採算が取れない」と判断されれば、その台はお蔵入りです。永久に日の目を見ることはありません。
もちろん、遊技機会社も厳しいですが、実はそれ以上に厳しいのが、アニメ会社、映像制作会社です。市場規模が小さいということはそれだけ人月単価が安く、遊技機の仕事と合わせて経営の収支の帳尻を合わせていたところで、遊技機の仕事がなくなり、利益率の高い仕事はなくなるわ、ラインは空くわ。営業に駆け回る社長が増えるわけです。さらに遊技機の仕事をやっていればやっているほど、制作実績を表に出しづらくなり、新規営業の際に営業資料が作れないという事態に陥ってしまいます。遊技機の仕事は売上や利益率、長期のラインの充足などメリットも多い反面、一旦規制で開発がストップしてしまうと次の仕事が取りづらい、業界全体に影響が出るので、競合他社と同じタイミングで営業に困るというデメリットも多々あります。
そんな時、社長にできることは二つだけです。開発が止まっていない仕事を探すか、遊技機業界以外で仕事を探すかのどちらかです。
もちろん規制は業界全体に影響を及ぼしますが、業界のすべてのプロジェクトがなくなるわけではありません。そのまま続行できるラインもありますし、検討の結果再開にこぎつける台もあります。そこの仕事を狙います。しかし、いざ、外注先が必要になったから手伝ってくれとなったとしてもそのあとが大変です。一つの案件に対して数社、多い時は10社近くの会社が手を挙げます。選ばれるのはクオリティが高くて値段が安くて評判がいい1社だけ。それ以外の会社はお見送りですし、受注できた会社も例え無理難題を吹っかけられたとしても断りようがありません。社長も現場も消耗してしまいます。
だからこそ、そういう時は遊技機業界以外に目を向けていただくことをお勧めします。例えば、ゲーム業界では、アニメ原作のIPを活用したゲームが多く作られており、原作に寄せて描く、あるいはオリジナルでも世界観に合ったテイストで描くことが求められます。また、mobage、グリーといったガラケー時代は一枚絵のカードイラストが中心でしたが、今は、キャラクターの攻撃モーションをコマ割りで制作することも増えていますし、ローポリの3Dをふんだんに用いたゲームも増えています。また、スマホのゲームもPVを制作することも増え、AfterEffectsを用いた映像も求められています。実際、遊技機で億単位のラインがぶっ飛んだとあるアニメ制作会社がゲーム系の案件を中心に数千万円の案件を受けて事なきを得たという話も聞きました。
遊技機業界の仕事ばかりやっていた会社、クリエイターにとっては、新しい業界の仕事に対して抵抗を覚えることもしれませんし、最初の案件を取ることは大変かもしれませんが、一度実績を作ってしまえば、信頼も得やすいですし、社内にもノウハウが蓄積されます。また、一つだけの業界に寄りかかってしまうよりもいくつかの業界の仕事ができた方がいざという時のリスクヘッジにもなりますし、社内のクリエイターの底上げにもつながります。
もちろん業界ごとに、仕事のやり方や進め方の注意点もあるので、やみくもに突っ込んでしまうのは危険です。イメージと覚悟はしておいてください。各業界の予算感、スケジュール感、要求されるクオリティの厳しさについては実際にその業界の案件実績が豊富な社長に話を聞くのが早いです。例えば、先ほどのスマホ系のゲームの話でいうと、「市場自体が新しいので、予算感やスケジュール感について現場の存在をまるで分かっていない要求をされる」というのはあるあるだそうです。
ビ・ハイアでは、アニメ・ゲーム・マンガ・遊技機・映像制作業界の経営者を200名規模で集める「TOP300サミット」も開催しています。特に困っていないから参加する必要性を感じないという声も聞きますが、逆に困ってからでは遅いです。仕事になるならないではなく、気の合う経営者仲間を見つけるぐらいの気持ちでも構いません。あるいはなんとなく参加してみたら仕事の話を持ちかけられることも他業界との接点を持つメリットです。明確な目的がない同士だから生まれる出会い、始まる仕事もあります。業界の役員の方、上場企業の部長、プロデューサー以上の方が参加可能な会となっていますので、いきなり仕事がなくなった時にも仕事に困らないように経営者同士の繋がりを増やす機会としてぜひご参加下さい。